NPO法人 Gift 創立5周年記念イベント
~国境なき町内会の作り方 作戦会議Vol.3~
『これからのNPOと企業の協働 with 大阪大学フォーサイト株式会社 取締役社長 松波晴人さん 』
行政や管轄といった枠組みに縛られず、地域同士がまるでご近所さんのような距離感で助け合えるフラットな社会、Giftが目指すのはそんな社会。いわば「国境なき町内会」です。
創立5周年を記念し、今回は大阪大学フォーサイト株式会社 取締役社長の松波晴人さんとの対談が実現しました。
Giftの理事でもある松波さんは、なぜNPOに関心を持つようになったのか?NPOと企業が協働することによって生み出せるものとは何か?国立大学の子会社という、今までにない新しい形で事業に取り組んでおられる松波さんならではの視点で語っていただきます!(ライター:西村 征輝)
司会・進行:寺戸 慎也
パネラー:小山 真由美
松波 晴人
どうしてNPOに関心を持つようになったのか?
寺戸:まずはGiftの可能性と、なぜ理事として関わられているのかをお伺いしたいと思います。
松波:元々は、2年前に会社を辞めて大阪大学に移った時から、日本が世界に広げていける、スケールできる価値は何だろうとずっと考えていたんですよ。歴史的にみてもインバウンドだけで栄えている国はなく、やはり日本で生まれた価値を世界に使ってもらって、国は栄える。それなら世界に広げていける価値ってなんだろうと考えた時に、社会課題の解決だと思ったんです。
つまり日本は少子高齢化で世界に先行しているので、同じように少子高齢化が始まっているアメリカや中国からすれば、日本はどうするんだろうと見ていると思うんですよね。人が減る時には、社会システム等、いろいろな問題が生じます。そうした社会課題をどう解決していくのかという価値を作っておけば、世界中にスケール出来るのではないかと思ったんです。そして、社会課題の解決に取り組んでるのはどこだろうと考えた時に、NPOだと。だからまずはNPOのことをもっと知りたいなと思いました。
そして、色々な縁からまゆさんと知り合って、様々なNPOをご紹介いただきました。僕は「行動観察」から入った人間なので、現場に行ってなんぼだと思い、最初は現場に行って色々と教えてもらって、勉強させてもらって。そしたら多くの社会課題を解決するための方法論を、様々なNPOさんが既に持っているなと思ったんですよ。
ただ問題はキャッシュフローをどう回すかということでした。
社会課題を解決しても、儲からないじゃんというような状況があるということもわかったんですね。それなら企業と上手く組むことが出来ればいいのではと思い始めてたんですけど、それはそれでまた別に色々な問題があることもわかってきました。とにかく、そういった経緯でNPOに興味を持ったので、Giftから理事のお声掛けをいただき、理事になりました。
でも、よく考えてみたら、大阪大学も、儲けるのが目的ではないので、企業よりは、NPOに近いですよね。そう考えたらNPOの方が歴史が長いと思いました。株式会社は東インド会社からなので、日本はお寺も言わばNPOなので、NPOの方が歴史が長いし、何か色々と出来るはずだと思ったのが実際のところです。
Giftの凄いところは、NPOがどういうふうにやると上手くいくのかということを、言語化して、ちゃんと教えてくれるスクール事業みたいなこともやっている。それぞれのNPOに寄り添いながら、これまで勘と経験で済ましていたところを、しっかりと教育出来るようにしているのは、これからすごく大事なところなので、とてもいいなと思っています。
小山:ありがとうございます。すごく嬉しいです。設立して間がないところや、まだ不安定な状態の小規模のNPOにとって、経営という視点、特にお金の面で、NPO活動の方法を学べる場所がなかなか無いと感じています。
先ほど松波さんもおっしゃっていたように、NPOはノウハウを持っているけど、キャッシュフローが回らないんですよね。それによって結局、社会課題が解決されずに残っている状態です。NPOにお金が集まるようにするには、NPOもお金を集めることを頑張っていかないといけないという思いがあるので、そこを評価していただけたのがすごく嬉しいです。ありがとうございます。
寺戸:NPOのキャッシュフローが回っていないという松波さんの興味関心と、Giftがやっていることが、マッチしていたんですね。
松波:そうですね。ただ、NPOは実際に価値を提供しているので、本当はキャッシュフローが回らないはずはないんですけど、その謎がまだ僕にも解けていないところがあります。イギリスでも、NPOと企業の間ぐらいの組織が出てきたりしていますから、その答えがまた見えてくるんじゃないかなとは思ってます。もしくは日本の古来のNPOであるお寺のやり方を学ぶとか、何か色々なやり方があると思うんです。
NPOと企業との協働から何が見えてくる?~新しい価値の創造について~
寺戸:ここまでの話でも出てきましたが、次のテーマは「NPOと企業との協働」についてです。
新しい価値の創造、社会課題解決にも繋がるかもしれませんが、NPOと企業が協働することによって、何が見えてくるのでしょうか?キャッシュフローの面なのか、果たして違う観点なのかというところを深めていきたいと思うのですが、松波さん何か考えはありますか?
松波:実際のところ、どこの会社も新しい価値が生まれなくて困ってるんです。従来の事業をやりながら、次の新しいこともやりましょうというのを、両利きの経営と言ったりします。しかし、従来の事業のコストダウンはどこもやってるんですけども、新しい価値を生み出して世界にスケールしたとかは最近あまり聞かないですよね。
一昔前は、ウォークマンを世界中の人が使っているなどの状況がありましたが、ここ10年、20年ぐらいあまり聞かないなというのが、実際のところです。だけど出来ることは出来るんです。かつてやっていたわけなので。そして、それが社会課題の解決なんじゃないかなと僕は思ってるんですけども。
企業も社会課題を解決してって言うところが多いです。社会課題を解決して、新規事業を生み出したいと、トップが言っている会社が、僕の知ってるだけでもいっぱいあるので。企業もそこに着目している事は間違いないです。ただですね、大企業は先ほど言ったように、コストダウンばかりしていたので、現場を知らなくなってるんですよ。現場仕事をどんどんアウトソーシングしちゃったので、お客さんのところで何が起こってるかとかんどん世間知らずになっていってるんですよ。現場の情報を持っていないので、新規事業を発想しろと言っても、なかなか出来ないところがあります。
NPOは実際に現場で活動していますから、それをうまく合わせられないかなとはずっと思ってましたが、どう組んだら良いのかということが、まだわかりません。下手すると良い情報だけ全部取られて、おしまいということも起こりかねません。正直に言うと、行儀の悪い会社があって、学生にコンペをさせて、その学生の案を取ってしまうなど、そういったことが平気で起こり始めています。
ただ大企業には、スケールが出来るという強みがあります。少し言い方が悪いですけど、NPOの人は、大企業をスケールマシンだと捉えるといいと思います。人やネットワーク、リソースがあるうえに、新しい価値がないかなと思っているわけなので、「大企業にスケールさせたる」くらいのつもりで何かできたらいいなと思っていますが、多分普通にやるとすごく不利だと思います。だから、まだ答えがないんですけど、企業とNPOが上手く組むことができれば、補い合えるはずだと思っています。
寺戸:まゆさんも民間でお仕事されながらNPOで活動されていますが、NPOと企業の協働について考えることはありますか?
小山:やはり企業側は新しいアイデアを出すということがすごい欲しい部分だと思うんですよね。そして、NPOは行政から委託を受けたりして、社会課題の現場、本当に困っているところをすごく知っている。松波さんが実際に現場に行ってくださったNPOも本当にすごい知見があるけれど、お金にならないジレンマを抱えています。そのバランスを上手く取れていないです。
企業が有利になってしまう、NPOが知られていないとか、いろんな条件が重なって、一緒に何かを作り出していったり、協力し合うことが出来ていません。そこが上手くいくようになれば、すごく可能性があるんじゃないかなとは思っていて、それはいつかやりたいと思っているところでもあるんですけども、まだどうしていいかわからない部分ですね。
寺戸:NPO側も「(事業を)スケールさせてないといけない」という課題感をあまり持っていないのかな、というのが僕の現場の印象ではあります。企業は企業側で現場感がなくなってきていますが、繋がりそうで繋がらないというのが見えてきている気がしてきています。
いまオンラインで視聴してくださっている方が面白いコメントをしてくださっています。「企業はスケールマシン、他方でNPOは、コンセプトリーダーとして、社会を牽引する力を持っているんだろうな」と。
松波:そこを誰がマッチングするといいんでしょうね。
小山:NPOは現場で精一杯で、自分たちの資金調達ですら、なかなか難しい状態です。さらに企業と連携するところまでは余裕がない状態で、お互いに壁があるなと思っています。まさに国境がある状態だと思うんですけど、そこをつないでいける仕組みが必要ですね。
松波:一通りは僕も検討したんですけど、やっぱり弁護士とかに相談すると、どうしても法律的にNPOが不利になってしまうっていうのが実際みたいですね。
小山:そうですよね。商品化された時点で、企業の方が有利に。
寺戸:その協働の仕組みに、何か新しいソリューションが必要なんですかね。協働組合とか、新しい企業の形は出てきたりしているので。
大阪大学フォーサイト株式会社設立経緯と今後について
寺戸:最後のテーマは「大阪大学フォーサイト株式会社設立について」です。
先ほど大学はNPOと似ているという話も踏まえつつ、営利活動を目的としない大学がなぜ株式会社を作ったということが、ここまでの話とも繋がるのではないかと思っていますが、松波さんどうでしょうか?
松波:そもそもの経緯からお話しすると、国立大学は基本的には国のお金で成立していますが、国もあまりお金を出せないので、自分たちで研究費を稼いでくださいということになりました。東大も京大も会社を作り、そこに続く形で2022年8月1日に、大阪大学も会社を設立しました。一昔前は国立大学で会社を作ってはいけなかったのですが、すべての国立大学が会社を作れるようになりました。
国立大学の子会社って、考え方によっては国の孫会社みたいなもんじゃないですか。すごいパブリックなんですけど、今は社員は僕を入れて3人、インターン1人で、4人しかいない。パブリックだけど、スタートアップというすごく変わった建て付けなんです。
何をやろうとしてるかと言うと、簡単に言うと企業と一緒に新しい価値を生むことをやっていこうとしています。新しい価値というのは、新しい商品だったり、新しいサービスだったり、新しい事業だったりします。我々がどうやって新しい価値を生むのかというと、2つ武器があります。
1つは行動観察です。元々僕は現場に行って、何が起きているかを観察して、そこから発想しましょうという「行動観察」という考え方を日本に広げた人間なんです。アンケートやインタビューもあっていいけれど、一次情報を取るために、面白くて変わったことが起きている現場に行かないといけないですよね。だから、NPOを紹介していただいた際も必ず現場に行かせてもらいました。そうすると色々と面白いことが起こってますよね、現場って。パリのことを知ろうと思ったら、パリの案内本を10冊読むより、パリに行ったほうが早いじゃないですか。
2つ目はこれを大阪大学でやるという意味ですが、先生方の知恵、教養を駆使しようとしています。大阪大学には6000人の教職員がいるんです。11学部、ありとあらゆる分野の専門の先生がいらっしゃり、最先端の研究をしてるんですよね。普通のコンサルティング会社では、本が情報源だったりしますが、本だと10年ぐらい前の情報だったりするものですから、最新の情報を駆使しようとしています。アメリカでは、アカデミアとビジネスが繋がっていますが、日本の場合はものすごく離れてしまっているので。
現場での行動観察の時に、色々な面白いことが起きています。それを解釈するときに、やっぱり様々な知見、知恵がないと出来ないですよね。人間ってすごく複雑だし、価値って簡単に言うけれど、価値ってすごく主観的じゃないですか。僕にとって価値があるけど、まゆさんにとって価値がないというのは普通にあるのと一緒で、主観的な要素だから計測しにくいし、議論しにくい部分だったんですけども、そこをなんとかしようとしています。特に文化人類学の先生とか心理学の先生といった、人文社会学系の先生方の知恵をいただきながらやり始めたんです。実は大阪大学に移ってから僕自身がやっていたことを、会社にしたという経緯なんですけどね。僕らは営業活動はあまりしてないんですけども、ありがたいことにすごくお仕事をいただいて、もう成功が見えてきたなと思っています。
寺戸:企業さんからのニーズっていうのは、具体的にはどのようなオーダーなのでしょうか。
松波:新しい商品じゃなくて「全く新しいカテゴリを産みたい」とか、そういう大きい話ですね。例えば、自動車会社から依頼を受けるとしたら、セダン等とは違う全く新しい車のカテゴリを作りたいといったオーダーです。一昔前はSUVがなかったように、車でも、新しいカテゴリや、新しい形が生まれてきているので、そういうのをやりたいというお仕事を、直接依頼をいただいています。そしてその会社の中でメンバーを募ってやっています。
寺戸:とても面白そうですね。
松波::面白いけど大変ですよ。たどり着けるかわからないですからね(笑)
小山:新しいカテゴリを作り出すのは難しいことだと思いますが、本当に凄いですね。松波さんがおっしゃったように、最新の生きた知見を活用できるというのは、すごく価値があると思います。それこそが、大学が会社を作ることの価値だと感じました。
先ほど、国立大学の子会社は国の孫会社みたいなものだとおっしゃっていましたが、それもまさに新しいカテゴリだと思うので、そこから生み出されるものによって、今はまだ誰も手が付けられていないようなところにも手が付けられる可能性があるなと思います。企業でもない行政でもない、まさにNPO的な、新しい分野に手をつけられるような会社なんだと感じて、すごい可能性を感じました。
松波:だからこそ、早く成功例を作ってしまいたいんです。成功例が作れると、あそこに出来るなら、うちも出来るってなるじゃないですか。野球で野茂選手がメジャーに1人で行って、批判されながらも成功しちゃうと、俺も行けるぞと皆が言いだしたように、早く成功例を作ってしまいたいと思っています。
寺戸:ここであえての問いなのですが、今は企業さんからのオーダーが非常に多いと思うのですが、NPOとフォーサイトさんが組む可能性はあるのでしょうか?
松波:まだやってませんが、そういうのはぜひやっていきたいですよ。やはりこれは会社なので、しっかりと収益をあげないと潰れてしまうので、まずは企業とやっていますが、本当は先生方と企業を結ぶだけじゃなくて、NPOの持ってらっしゃる知恵、教養、方法論を上手く繋ぎたいと思っています。どうマッチングするといいのかがまだ見えてきていないのですが。
小山:そうですよね。やはりそこに課題がありますよね。どうやって企業とNPOを繋げていけばいいのか。
寺戸:少しモヤモヤを残したままですが、答えのないまま終わる対談も良いのかな、と思います。一旦ここでお開きにしたいと思います。お二人ともありがとうございました。
松波・小山:ありがとうございました。