はじめに
NPO法人アゴラ音楽クラブの代表水野さんに、今回のインタビューをお願いしたいと思ったのは、私たちが主催するファンドレイジングデザイン講座を受講してくださって、その講座で活動についてお伺いする中で、障がいを持つかたにとって、アゴラ音楽クラブの存在がかけがえのない存在であるように感じ、そこに情熱を注ぐ水野さんのことをもっと詳しく知りたいという気持ちが溢れてきました。
今回は、Giftのイベントを一緒に企画したこともある西村くんにインタビュー及び記事を書いていただきました。
ボリュームのある内容ですが、とても素敵なエピソードが詰まっています。ぜひじっくり読んでください。
「人の可能性を信じる」
言葉にするのは簡単だけど、とても難しいことだと思います。
「この人はこういう人だから」と、知らず知らずのうちに相手を決めつけてしまい、誰かの可能性を奪ってしまうことも。そして、いつの間にか、自分自身も同じように決めつけてしまい、自分の可能性を信じられなくなることが私にはあります。
「信じているんです。」
そう力強く話すのは、奈良で障がいを持った子どもたちと、音楽活動を展開する「NPO法人アゴラ音楽クラブ」代表の水野さん。笑顔で語られる水野さんの姿を見て、もっと相手のことを、そして自分のことを信じてみてもいいのかもしれないと、私は思いました。
ー障がいを持っている子はそれ自体が生活ー
西村:障がいを持った方々への音楽指導をされているということですが、詳しくお聞きしてもいいですか?
水野さん:主に知的障害を持った人たちの音楽指導と、老人ホームに演奏に行ったり、地域のお祭りに出演したりして、みんなの活動を知ってもらうということをしています。講師として障害者施設に指導に行く、学術的に研究してその成果を発表するということもしています。
西村:指導はどういったことをされるのですか?
水野さん:障害者施設の音楽レクレーションや、踊ったり、私の場合は和太鼓をやっているのでその指導をしています。
西村:音楽の効用に関する学術研究をされているのが珍しいと感じたのですが。
水野さん:実はこれをするために NPO を立ち上げたんです。元は研究の部分がなく、普通の任意団体だったんです。その時にいろんな効果が出てくるし、どうにか発表したくて、私はその時ドクターを取ったんですね。 あちこちで成果を発表していたんですけど、大学院出てからも、大学と連携していくならば、ちゃんとした団体にしたほうがいいというアドバイスを受けて、それで NPO を設立したんです。
西村:音楽教室はいつ頃からされていたのですか?
水野さん:1988年です。
西村:1988年からされていた活動を通して、体感として感じていた部分を研究したいということだったのですね。
西村:なぜ障がいを持った方々に関わろうと思ったのですか?
水野さん:最初は健常の子を教えてたんです。ピアノは子どもの時からやっていて、近所の子どもたちにピアノを教え始めたんです。そしたらその子の兄弟に自閉症の弟がいたんですよ。障がいを持っている子とはこれまで全く関わったことがなかったのですが、その弟さんも見てほしいとお母さんから頼まれて。本当に典型的な自閉症だったので、言葉を話すのも難しかったんですけど、音楽的にすごい才能があって。記憶力や絶対音感があったもんですから、すごく感動して。そこから音楽療法の勉強を始めたんです。それをコラムや教育雑誌に投稿しているうちに、徐々に生徒が増えてきて、 健常の子よりも増えたんですよね、 障がいを持ってる子が。
西村:最初から障がいを持った子に関わろうという形で始まったのではなく、健常の方を
対象としていたところから、広がりとして出てきたということなのですね。
水野さん:そうです。そこでその子達だけの団体を立ち上げたんです。 アゴラ音楽クラブの任意団体を立ち上げた2001年からは、健常の子は他の先生にお任せして、私は障がいを持っている子だけを対象にして見てるんです。
西村:障がいを持ってる方だけを見るようにした理由は?
水野さん:なぜ分けるようにしたかというと、健常の子達は、例えば音楽で受験したいだとか、コンサートみっちりやりたいだとか、やっぱり活動の目的が違う。障がいを持っている子はやっぱりそれ自体が生活だし、「そういう子がいますよ」というのを、いろんな特別支援学校にも私は紹介したかったので、健常の子の音楽を育てるのは、専門の先生にお任せしたんです。
ー他に行くところがないー
西村:障がいを持った子と関わることに、最初は難しさがありましたか?
水野さん:会うまでは何も考えなくて、すごい楽観的だったんですけど、一目会ってみて、初めて向き合ったので、難しいことばかりでした。多動で動きもあるし。
西村:その方とはどのように関わっていたのですか?
水野さん:こっちが弾いてると一緒に横から手を出してきたり。お母さんからリズム感があると聞いていたので、タンバリンを持たせると、正確にリズムを取れるんです。本当にちょっとずつやって、ピアノはかなり弾けるようになりました。今はもうその子はいないですけど。
西村:その子とはどれぐらいの期間関わっていたのですか?
水野さん:10歳からなので、 30年ぐらい関わっていました。
西村:すごい長い期間ですね。その子から徐々に増えていったということですよね。
水野さん:そうです。2番目に来た子はまだいます。
西村:本当に一人一人と長く関わっているのですね。
水野さん:障がいを持った子は、他に選択肢がないと言うか、行くところがない。そして学校卒業してもずっと続けるので、辞めない。よほど体が悪くなったりとかでないと辞めないです。
西村:他に行くところがない。
水野さん:皆いわゆる福祉作業所で仕事してるんですけど、16時に終わるんです。その後の余暇の時間をどう過ごすのかがみんな課題なんですね。スポーツもありますけど、音楽が好きな人が多いんですよ。でも行けるところが少ないんです。普通の音楽教室ではなかなか対応しきれない。大阪の方から来る子もいます。まだまだ参加する場所が少ないですね。
西村:もともと音楽好きという子が多いのですね。
水野さん:結構才能を持っている子達もいるんですよ。 すごく好きだったら、ドレミファソを弾けるようになって、そこから、「愛の讃歌」弾きたいとか、「糸」を弾きたいとか、一生懸命練習するわけですね。それがもう楽しみに。
西村:でも実際にその子たちを受け入れる先が無い。
水野さん:そうです。
ー才能をどんどん開花させようー
西村:音楽教室や、レクリエーションをする上で、アゴラさんが大切にされていることはありますか?
水野さん:障がいを持つ子の活動というのは、「障がいを持っているからこの程度、楽しんでたらいいだろう」というような活動がほとんどなんですね。音楽療法の世界でも無理にさせないとか、楽しむということになると、その子達が自己肯定感や、本当の達成感を得られないままに終わってしまう活動がほとんどだと思うんです。 でも私は、アゴラでは、 もっと才能をどんどん開花させようという想いでいつもいます。
西村:「こんなものでいいだろう」ではないということですよね。こちら側が限界を決めるのではなくて。
水野さん:出来るんですよ。音楽が上手になるだけじゃなくて、他のことがどんどん伸びるんです。記憶力や、コミュニケーション、言葉も。能力がすごく向上するんです。だから余計に研究をしたいと思うようになったんですよ。
西村:具体的なエピソードはありますか?
水野さん:例えば、手が拘縮して全然動かなくて、人に持ってもらって太鼓を叩いていたような子が、みんなでやっているうちにまっすぐ手が伸びてきたんですね。 声が出なかったのが皆の掛け声につられて出るようになった。それから自閉症の子は左右の手の協応動作がうまくできないですけど、太鼓の場で交互に手を動かせるようになったり。またダウン症の子は、指が短かったりして、なかなか5本の指を自由にコントロールできない特徴がある子が多いんですけど、ピアノ弾きたい一心で動かしていると、動くようになるんですね。
西村:すごいですね。
水野さん:そう。五本指で弾くようになる。そういうことが目に見えて出来るようになるんです。
西村:一般的な見方では、指を動かしにくいからやっぱり難しいと考えると思いますけど、水野さんは、やりたい気持ちが彼らをそうさせると。
水野さん:そうですね。やりたい一心で動かすじゃないですか、それで動いていくということです。すごく良いスパイラル。
ー1人でやるよりは2人、2人でやるよりは3人、3人でやるよりはたくさんの人とー
西村:子ども達への関わり方で意識されていることはありますか?
水野さん:子ども達との一対一の関わり方だけではなくて、その子達どうしの関わりや、外部の人との関わりもすごく大事にしていきたいと思ってるんです。 誰でもそうですけど、1人でやるよりは2人、2人でやるよりは3人、3人でやるよりはたくさんの人と一緒にやった方が絶対に能力が伸びるんですよ。なので色んな人と関われるように意識して進めています。
西村:具体的にどのような関わり方をするのですか?喧嘩があったり、必ずしも全てうまくいくというわけではないと思うのですが。
水野さん:例えばピアノだったら2人で連弾してみることで、コミュニケーションを取れるようになったり、合奏するだとか。ダンスや和太鼓の場合は元から大勢ですが、ピアノでも人と関わることをやってみるとか。
西村:グループ活動をなるべく多く入れるように意識されているということですね。
水野さん:そうですね。先ほど喧嘩と言ってましたが、いわゆるダウン症の子ども達は、人とぶつかることは滅多にないです。むしろ協調性が高いです。一方、自閉症の子はなかなか言葉のコミュニケーションは取れないんですけども、ピアノを連弾したり、タンバリン鳴らしたりしながら、それに合わせてピアノを弾くことは出来るんですよ。これって立派なコミュニケーションですよね。合わせるって。どんどん人と交わることを大事にしていきたい。それがすごく効果があるのをみんなに知らせていきたいなと思うんですよね。
西村:知ってもらいたい気持ちはやはり、変えていきたい気持ちがあるのですか?
水野さん:そうですよね。知らない人が多いから。子ども達を連れて行って演奏したら、「えっこんなことができるの!」ってだいたい驚かれるんですよね。それを聞いて子ども達は自信を持つじゃないですか。「こんなこと弾けるの、すごい」と涙を流して喜んでくださる方もいますし。歩くのがままならないような子がピアノを弾いたり、マリンバ弾いたり、みんなでバシッと太鼓を叩いたりすると、老人ホームなんかだったらおじいちゃんおばあちゃんはもうウルウル…それを見ると子ども達はね(笑)
西村:良い循環が起きていますね。
水野さん:海外でもそういうことをしているところはほとんどなくて、それこそ何十年も続けてというのはね。だからもっと海外にも知らせていきたいなと思ってるんですよ。
西村:それで、ホームページでは英語と、ドイツ語で活動紹介が?
水野さん:ドイツで講演したり、交流したりしてたんですね。今はちょっと行けないですけど。
西村:保護者の方々からはどういう反応があるのですか?
水野さん:保護者の方は音楽の効果にものすごく驚かれて、本当に最大の支援者です。
ー信じているんです。必ず、皆それぞれ何か持ってるのでー
西村:水野さんが活動している中で喜びや達成感をを感じる瞬間はどんなときですか?
水野さん:それはやっぱり、出来ないことが出来たり、子どもたちが生き生きと音楽をやってたりとかも。 いつでも楽しいですね。
西村:伝わってきますね。頑張っている感覚はなく、一緒に楽しむ。
水野さん:すごい楽しいですね。太鼓は特に楽しいです。
西村:どういったところが、と聞くと逆に難しいですか?
水野さん:難しいですね、聞かれてみると。体も心も楽しんでます。あっちこっち出たがりなので、一緒に連れて行くんですけど、一番出たがりは自分なんです(笑)
西村:水野さん自身が楽しまれているということですね。それはとても素敵ですね。
西村:今はできていないことで、これからやっていきたいことはありますか?
水野さん:これからは総合芸術を目指していきたいんです。一つプランがあるのはミュージカルなんです。自閉症で絵を描く子が結構いるんですね。素晴らしい絵を描くんですけど、その絵を背景に使ったり、ダンスやる子もいるし、楽器だけでなく歌が好きな子もいるので、ミュージカルみたいなことをやってみたいなと。それも健常な子も含めて、皆でインクルーシブなイメージで作っていきたいなと思っています。いろんな才能を引っ張り出していきたいなと思って。
西村:今回話を聞いていても、水野さんが関わる子どもたちの可能性を信じていることが伝わります。
水野さん:そうです。信じているんです。必ず、皆それぞれ何か持ってるので。それがひょっとしたら音楽じゃないかもしれない。絵を描くことかもしれないし、体を動かすことかもしれない。でもね、音楽をきっかけにわかることが結構あるんですよ。
西村:それは例えば?
水野さん:例えば音楽をやりながらこれ絵に書いてみようとか。どんな感じ?とかで聞いたら、もう「おおー!」っていうような絵を書いたりするんですよ。健常の子だったらまずできないです、そういうことってね。この音楽ってどんな絵かな?って。体で表してみようとか、健常の子だったら照れくさくて出来ないようなことでも障害のある子は素直にやってくれるんですよ。これちょっと伸ばしたらいいんとちゃうかなとか思うんですよ。
西村:関わってる中でも発見が色々あるということですね。
水野さん:そうですそうです、その通りです。
ー本当の意味でのインクルーシブな世界ー
西村:アゴラさんが叶えたい未来はどんな未来ですか?
水野さん:叶えたい未来は、障がいあるなしだとか、人種だとか、男女だとか、そういう違いのない、本当の意味でのインクルーシブな世界。誰でも自分の才能を開花させる、思いっきり輝ける、そういう世界であってほしいなと思います。
西村:逆に今はなかなかそうなっていないなと感じるところはありますか?現在の社会を見た時に。
水野さん:インクルーシブと言っても、健常の子の場に障がいのある子を入れてあげるみたいな、「なんとか一緒にやってます」みたいな雰囲気じゃないですか。そうではなくて、障がいのある無しにかかわらず、それぞれに何か持ってるんですよね。その持ってるものをうまく花咲かせられるような。それをうまくできるようになっていきたいな。誰でもが大事に育てられるような社会ということなんです。
小山:話を聞かせていただいてすごく大事な活動だなと感じました。いろんな人に知って欲しいという気持ちが湧いてきますよね。やっぱりどうしても決めつけて、出来ないと思いがちだけど、本当はすごい才能がある。それをどんどん引き出して、その子の可能性が広がるのを目の当たりに見ていたら、毎日楽しくてしょうがないという感じが伝わってきました。
小山:やっぱり知らず知らずに可能性を潰してしまっている社会だなと思います。それがすごくもったいないので、アゴラ音楽クラブさんがやっていることを、それこそ世界に対して発信できて、その可能性を潰さない社会になっていったらすごくいいなと思いました。
水野さん:それは、障がいを持ってる子に対してだけじゃなく、本当にみんなにとって住みやすい社会ではないかと思います。
小山:高齢化社会がこれから来ると言われていて、そこでも生きてくると思いますね。身体的にだんだん衰えてきたときに、どうしても可能性を感じなくなってくるけど、「いや、でも、そんなことないんだよ」って。持ってる力を引き出すのがすごく大切なんだなって思いました。
最後に
楽器がたくさん必要です。いろんな楽器をみんなに体験してもらいたいです。活動する場所も必要です。それから訪問演奏にもたくさん行きたいので、そのための旅費などを支援していただければと思います。
アゴラ音楽クラブさんへの寄付はこちらから!
https://syncable.biz/associate/agoramusicclub/
アゴラさんの紹介ムービーはこちら
https://youtu.be/vAIeDzOv7N8