新井和宏さんインタビュー企画【Giftが循環する社会へ】 ~お金を通して考える、これからの組織・教育~

第一弾:自分を生きる(Well-being)
~組織を支える個人から、個人を支える組織へ~

みなさん、はじめまして。寺戸慎也(てらどしんや)と申します。普段は若者の就労支援の仕事をしております。

今回は特例認定NPO法人Gift(以下、Gift)代表の小山さん、Gift主催でのお金に関する対話イベント(9/19(日)9/25(土)に開催予定)を企画している八木さんと一緒に、株式会社eumo(ユーモ)の新井和宏さんにインタビューしました。

実はインタビューの少し前から、新井さんの新著「あたらしいお金の教科書」を使ってABD(アクティブ・ブックダイアローグ)と呼ばれる読書会イベントを企画していたところで、新井さんのお誕生日に小山さんが思い切ってメッセージを送ったことから、当インタビューが実現しました。

Giftは「お金を理由に活動を諦めてしまうこと」を解決するために、ファンドレジング、いわゆる寄付を中心とした経営の提案など、NPOの経営支援を活動の中心としています。

一方、新井和宏さんは大学卒業後に金融機関で勤められた後、自ら鎌倉投信を設立。投資信託「結い2101」では、日本一を意味する最優秀ファンド賞を獲得されている日本を代表する「お金のプロ」です。その後、鎌倉投信を退職、2018年9月、株式会社eumo(ユーモ)を設立されています。

Giftと新井さん、両者ともにお金に関わる活動をしているという共通点があります。お金は、ただの数字のように見えることもありますが、その先には人々の活動があり、さらにその活動の先には豊かな社会があるはずです。今回のインタビューでは、新井さんと今後の社会についてお話をお聞きし、その先に見える「あるべきお金の姿」について考えていきました。

お金をめぐるインタビュー、話題は組織、教育、さらに働くことと幅広く展開していきました。計3回にわたって連載していきます。

第一回目:お金を通して考える、これからの組織・教育←今回はこちら
第二回目:経済とは「共感による分業」〜お金は目的ではなく、手段〜
第三回目:与えるから始まるGift経済、子どもの疑問に応えることから

 


必要なのは「選択肢」


寺戸:本日は非常に緊張しておりますが、よろしくお願いいたします。

NHK「プロフェッショナル 仕事の流儀」に出演されていた時に、投資に対する姿勢として「徹底的に読まない」と言われていたシステマチックな新井さんが印象に残っています。一方で新著「あたらしいお金の教科書」の中では、人自身が持つ価値について多く語られているような気がします。

本の中では、副業や個人事業主など新しい働き方が増えてくるとも言及されていますが、システム的な部分と、人間的な部分。今後の組織の中ではこの2つがどのようなバランスになっていくのでしょうか。

新井さん:「ありがとうございます。私はあまのじゃくなので(笑)、ファンドマネージャーとして、当時は『プロはお金の流れを読むことができる』という風潮に対し、バランスが悪いと思っていて。もちろん、ある程度は読むことはできますが、自分のできること/できないことを把握しているのがプロだと思っているので、バランスを取るために「徹底的に読まない」ということを話していたかと思います。

さて、組織論についてですが、会社組織だけで個人の人生を支えることが難しくなってきていると思います。

定年という概念そのものが崩れていく中で、【組織のための個】ではなく【個のための組織】になっていくのだろうと思っています。その人自身を生きることが重要になってくることは、もう既知のこと。そのことに気づいている企業はもう変わり始めています。ただ会社の在り方については、ガラッと変わることはないと思います。

私は新旧の二項対立で語るのはあまり好きじゃないんです。社会課題というのはつくづく【選択肢がないこと】だと思っていますが、選択肢を用意したら、あとは個々の自由のはずです。でもその選択肢を他者に強要しようとしてしまう、それはエゴですよね。」

寺戸:日本では今だに「偏差値教育」が主流であり、同じルールの中でいかに高い位置にいけるか、という教育であると思います。その教育によって新しい選択を阻害するような風潮が醸成されているような気がしています。

新井さん:「教育で言うと、分かりやすさを優先しすぎのように思います。日本では、何歳になったらどこに入って、どのように学ぶかまで画一化してしまうでしょう。管理する側が楽したいだけですよ。多様な人を作りたいのであれば、おかしくありませんか?と思うんです。

確かに効率は上げることは悪くはないですし、競争させることによる得られるメリットもあったのだと思います。ただ、やはり教育にも「選択肢」がないんですよ。今の教育は、合う人は良いけど、合わない人は脱落してしまうサバイバルゲームになってしまっていて、「あれ、そんな必要はあったんですっけ?」と思うんです。学ぶタイミングと学び方にまったく選択肢がないですよね。」


子どもたちに、大人の不条理を押し付けたくない

寺戸:日本人全体がそういった教育の中で押し込められている、ある種の「箱」の中に入っていて、新しい選択肢に踏み出せないように感じています。この著書「あたらしいお金の教科書」自体も、人々に考えてもらう、人々の考えを変える狙いがあると思うのですが、どうしたら、僕たちはその箱の中から出られるのでしょう。

新井さん:「機会があれば、言っていく事しかないですよ。学校でも講演をするのですが「手段と目的をはき違えてはいけない」ということを学校の先生方にもよく話しています。

高校でいうと、進学率を上げることが先生の目的になってしまっている。学生に対して『優秀だから大学に進学しなさい』って、ほんとはおかしなことなんです。地元の優良企業で働き始めたほうがよっぽど幸せな子もいるわけで、働き始めて学びたいことがあれば、途中で学びなおせばいいのに。学校の進学率のために進学させるというのは、間違ってますよと正直に伝えます。嫌われますけどね(笑)

でもね、嫌われてもいいんですよ。僕が見ているのは、子どもたちですから。「社会に出たらこういうもんだ」とか「そんなことはまだ考えなくていい」とか、大人の理不尽さを、子どもに押し付けるのが一番嫌いなんですよ。

疑問に思うことに答えるのが先人のやることでしょう。教育の中では「なぜ?」と思うことが大事なのに、画一化してしまう。だからこそ、この本(新しいお金の教科書)のような爆弾を放り込むわけですよ。

お金自体も、暗黙のルールになっています

誰にも教わっていないのに『大事にしなさい』『将来のために取っておきなさい』と言われるわけですが「そもそもお金って何なの?」ということに誰も答えていませんよね。大人自身も答えられない。

逆に、大人たちは、テクニカルに「こうやったら儲けられる」みたいなことばかり話している状況で、これではだめだと、苦手ながらこうして本を書いているわけです。夜中3時に起きてきて「追い込まれた作家」のような状態で執筆作業をしています。まぁ苦手苦手といいながら、これで5冊目なのですが(笑)でもね、大人の理不尽さや不条理を、子どもたちに残してはいけないと思っています。」


まとめ

新井さんにお話しを聞いていく中で、常に世の中のバランスを意識して行動、発言されている方だと感じました。

子どもたちが【暗黙のルール】について疑問を感じたなら、大人たちも考え、その疑問に答えていくこと。教育について考えることは「これを学ぶべき」という大人から子どもへの一方的なものではなく、大人も子どもも一緒に学ぶタイミングであるような気がしました。

子どもたちの選択肢を作っていくこと。その為に、今社会にある暗黙のルールに対してまず大人が向き合うことが重要だと思います。

次回、教育から働くことへ話は移っていきます。

第二回目の記事はこちらから:経済とは「共感による分業」〜お金は目的ではなく、手段〜

 

【新井和宏さんプロフィール】

1968年生まれ。東京理科大学卒。1992年住友信託銀行(現・三井住友信託銀行)入社、2000年バークレイズ・グローバル・インベスターズ(現・ブラックロック・ジャパン)入社。公的年金などを中心に、多岐にわたる運用業務に従事。2007~2008年、大病とリーマン・ショックをきっかけに、それまで信奉してきた金融工学、数式に則った投資、金融市場のあり方に疑問を持つようになる。2008年11月、鎌倉投信株式会社を元同僚と創業。2010年3月より運用を開始した投資信託「結い2101」の運用責任者として活躍した。鎌倉投信退職後の2018年9月、株式会社eumo(ユーモ)を設立。
近著に「あたらしいお金の教科書:ありがとうをはこぶお金、やさしさがめぐる社会」その他『投資は「きれいごと」で成功する』(ダイヤモンド社)、『持続可能な資本主義』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)、『幸せな人は「お金」と「働く」を知っている』(イーストプレス)、『共感資本社会を生きる』(共著・ダイヤモンド社)


 

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