『お金と寄付の在り方について語る with 認定NPO法人D×P 代表 今井紀明さん』

NPO法人 Gift 創立5周年記念イベント

〜国境なき町内会の作り方 作戦会議Vol.1〜

『お金と寄付の在り方について語る with 認定NPO法人D×P 代表 今井紀明さん』

 行政や管轄といった枠組みに縛られず、地域同士がまるでご近所さんのような距離感で助け合えるフラットな社会……、Giftが目指すのはそんな社会。いわば「国境なき町内会」です。

 創立5周年を記念し、今回は寄付型NPOのパイオニア的存在、認定NPO法人 D×P(ディーピー)の代表 今井紀明さんとの対談が実現しました。

 危機に瀕したコロナ禍をどうやって乗り越えたか? 10年間やってきたからこそ見えるものとは? ディープでホットなコラボ対談の幕が、今上がります!! (ライター:人見 尚汰

司会・進行:寺戸 慎也

パネラー:小山 真由美

今井 紀明

 

 

〜「寄付」という民間の善意〜

 

寺戸:『Gift』と『D×P』さんの大きな共通項である「寄付」。その「寄付」についてまずはお伺いしたいのですが、D×Pさんが経営に「寄付」を取り入れられた経緯や、「寄付」にまつわるエピソードなどをお聞かせ願いますでしょうか?

 

今井:わかりました。我々D×Pは、設立から最初の3年間は事業型の経営をしていまして、4年目くらいから寄付型の経営に移行していきました。これは主に「10代への支援」という、自治体や企業ではなかなか取り組みづらい範囲へとリーチしていく必要があったからなんです。当時は今よりもですが、15〜19歳への支援などが義務教育化に比べれば手薄でした。事業を作っていくためには自分たちで寄付を募り、事業を作る必要があったんですね。

 

その一例として、『ユキサキチャット』というLINE相談があります。こちらは就職・進学支援を始め、食糧支援(約66000食)や現金給付支援(約3700万円)などにも取り組んでいまして、現在約9000名の方が利用されています(2022年7月末現在)。過去にはメディアに取り上げていただいたこともありました。

 

こういった事業の存在もあり、それがきっかけで政府の孤独・孤立対策の分科会にも入らせていただき、社会的・政策的な発言が出来る立場になりました。それは、多くの方々からいただいた「寄付」という資金が積み重なって出来た結果だと思いますので、社会を作る資本として、「寄付」が必要とされるべきなんじゃないかなと、事業を通して感じました。

 

寺戸:事業で得たお金じゃないからこそ……。「寄付」という民間の善意で集められたお金だからこそ、国や行政に対しても意見がしやすくなる……そんなイメージでしょうか?

 

今井:まさしくおっしゃる通りです。

 

「寄付だからこそ」で言うと、仮に『ユキサキチャット』が行政からの委託事業だった場合、「就職させなきゃ」「進学させなきゃ」という気持ちになりやすいんじゃないかなと思っていて。「寄付」の場合は使い方をある程度こちらに委ねられる側面がありますので、例えば生活保護の取得や住居の確保など、就職・進学にこだわらず広く目標・目的設定をしながら取り組みやすい。自分たち独自の基準を設けて活動することができる……それが「寄付」の強みの一つなんじゃないでしょうか。

 

小山:NPO運営でも同じことが言えると思います。行政からの補助金や助成金に頼って事業をしていると、時に本来のミッションから逸れていってしまうことも起こり得るんですが、「寄付」であれば自分たちが目指しているミッションに従って活動しやすくなると考えています。

 

私たち自身、設立当初からD×Pさんを目標にしながら、「寄付」を取り入れた経営を目指して活動してきていますし、今のお話を聞いて改めてすごいな、レベルが違うなと思いました。

 

 

 

 

〜寄付したくなる団体になるため〜

 

小山:設立間もない時期、D×Pさんと一緒にファンドレイジングをさせていただいたことがあったんですが、実際に寄付者さんのところに伺った際の今井さんのプレゼンテーションやお話すごくって。寄付者の方が即答で寄付されたんですよ。それ見て、本当に必要なことが伝われば人の心ってすごく動くし、じゃあ寄付します! ってなるんだなと思いましたね。

 

改めて「伝える」って大切だなと思うんですが、実際はかなりハードルが高くて。F,Labを通して「寄付を集めましょう」っていろんな団体にお伝えしてるんですが、なかなか難しいみたいなんですよね……。

 

今井:おっしゃる通り「寄付」集めってめちゃくちゃ難しいと思います。そもそも「寄付」が必要な事業なのかどうか精査するのが大事ですよね。それがまず大前提かなと思っています。もうすでに行政委託事業として出てる内容で「寄付」を集めようとしても、一般の方に理解してもらえないと思います。他にないユニークさだったり、どうしても寄付が必要なんだと理由を説明できること……この辺りが10年間活動してきて大切なことだと思います。

 

それらを踏まえ、実際に寄付という形で事業に参加してもらうポイントがいくつかあると思っています。まず一つ目は、情報公開。なんの事業をしているか、これを事細かに説明していくんですが、主なターゲット(寄付者)と想定される方々が普段使っているツール(SNS)を使い、事細かに開示していくことですね。Facebookユーザーが多そうならFacebookで、TwitterならTwitterで、ちゃんと事業の詳細を伝えていく必要があります。

 

二つ目は、お金の使途です。食糧支援と現金給付支援だけでは若者たちが次への一歩を踏み出すための支援や、その他の課題解決は出来ません。しっかり人件費を使って相談支援にも力を入れたいと明確に伝えていくことは必要かなと思います。そのため、実際D×Pでは「寄付」の5〜6割を人件費に使う、と明確にお伝えしています。

 

最後三つ目は、お願いしていく、ですね。一緒に社会を作って行きましょうよ、あなたにも参加していただきたいなという気持ちをとにかく伝えていくことですね。

 

情報公開、お金の使途、お願いしていくこと。この3つがあるからこそ「私も一緒にこの問題解決していきたい」と参加してもらえるんじゃないかなと思います。

 

小山:F,Labの中で「経営分析」というステップがあり、団体の決算書を分析するんですが、そのモデルとしてD×Pさんを使わせていただいたことがあるんですよ!

 

今井:あ、そうなんですか!?

 

小山:そうなんです。D×Pの報告書を見て、とてもきめ細やかに報告されているなぁと思って。受講生からも「これは絶対『D×P』に寄付したくなる」って声が上がっていて、流石だなと感じましたね。

 

 

 

 

〜存続危機・転換期〜

 

小山:それを踏まえてお伺いしたいのですが、コロナが流行りだしたころの決算書を見させていただきまして、ものすごく大変だったんだろうなと決算書から伝わってきました。いろんな事業がストップしたり、寄付も減ってしまったりと苦しい状況が続く中、大きな借り入れや、オンラインで出来る新規事業を開拓され、見事なV字回復を果たされましたよね。あの局面を乗り越えられたのは本当にすごいと思いますし、経営者として大変な判断をされたんじゃないかなと思っていまして。もしよろしければその当時のお気持ちなどをお話しいただけませんか?

 

今井:全然話せますよ!! D×Pは年度が4月〜3月なので、2019年度はコロナの時期と被ってたんですよね。それ故、年度末に入る予定だった1000万単位の寄付が止まってしまいまして、債務超過近くになって「これはまずい」と。一方で、この時期親御さんに頼ろうにも頼れない、例えば一人暮らしをしているような子たちからの「ご飯食べれてない!!」という相談が急激に来始めていました。「これは僕たち以上に子どもたちの方が絶対大変な状況だろう」と思い、スタッフ全員と一気に面談して、オンライン相談に力点を入れて食糧支援と現金給付支援に懸けていきたい……そんな想いでまとまって、次年度(2020年度)4月頃に4000万弱の融資を得て、食糧支援と現金給付の事業を発足させるに至りました。

 

これを機に、団体として注目を浴びていくようにもなったんですが、かなりリスキーだったなと思います。そもそもオンライン相談から食糧支援や現金給付支援を実施していった団体は同じ分野ではほとんど聞いたことなくて。でも、正直あの頃って相談しててもあんまり意味ないなと思ったんです。即座に判断・行動して奏功したところはあるので、あれはD×Pにとって大きな転換点だったなと思いますね。

 

小山:あの時期って飲食店が軒並みお店を閉めていて、学生さんや若い人たちがアルバイトや仕事を失うといったことがありましたよね。めちゃくちゃ困ってるけど誰も助けてはくれないという状況の中、誰もやったことのない大胆な判断をD×Pさんはされました。特にD×Pさんと同じく大きな寄付を失い、活動を継続できなくなっているNPOも少なくない中でしたので、その中で資金調達と事業の方向転換までなされたのは、もう本当にすごいの一言です。

 

今井:あの時は「なんとか10代を軸にやっていこう」と説得しました。とはいえ事業の性質上、せっかく借りた融資を放出するような仕組みでしたし、今考えてもむちゃくちゃな経営判断だったなと思います。みんな半信半疑だったでしょうね。それでもついてきてくれたのはありがたかったです。

 

寺戸:常に10代の子たちのことを中心に考えていらっしゃるからこそ、「寄付」するときにもその想いが伝わるんでしょうね。ご自身としても意識されている部分なんでしょうか?

 

今井:「寄付」を預かっている以上責任もありますし、どうやって運営するかをシビアに考えています。我々に場合、本当に多くの方々から「寄付」をいただいているので、「10代の孤立解決のために何をするのか?」を問い詰めながらやっていますね。

 

寺戸:僕自身も支援業界にいますが、物的支援はダメでしょ? っていう声も時折耳にしますので、「今は相談じゃなくて物資だ」と切り替えられたのはなかなか出来ることではないですし、本当に課題のすぐ近くにいらっしゃるからこそできた判断なのかなと思いました。

 

 

 

 

〜Gift & D×P 作りたい世界とは?〜

 

寺戸:最後に、お二人が今後目指していきたい世界についてお話を伺っていけたらと思います。今井さん、いかがでしょうか?

 

今井:D×Pは、「一人一人の若者が自分の未来に希望を持てる社会」をずっと突き詰めていく法人であり、独自の目標『2030ビジョン』を掲げています。これは、さまざまな境遇で孤立している全国の10代 約50万人の3割(15万人)に対し 、「人・居場所」「生活費」「食べる・住む」の3つのつながりを提供できる状態を2030年度までに作るというものです。

 

10代の子たちのコミュニティーってかなり分散化していて、繋がろうにも繋がりにくかったり、見えづらい部分があります。政府や行政とも繋がりづらくなるかなとも思っていて。国や自治体に提言しながらも、NPOとして取り組んでいかなくちゃいけないなと思っています。

 

寺戸:めちゃくちゃ楽しみですね!!

 

小山:本当に!! そういう仕組みが必要だなと感じているし、これからの人たちが自分たちの声をしっかりと届けていく、吸い上げていく機能がないと、思いが伝わらずモヤモヤし続けてしまうと思うので、めちゃくちゃ応援したいなと思っています。

 

今井:ありがとうございます!

 

寺戸:今井さんって本当に広い視野で社会のこと見てらっしゃるなと、ここまでお話を伺ってきて思ったんですが、そんな今井さんに僕から一つお聞きしたい事がありまして。今回イベントに参加されている方々は、若者支援以外にも各々いろんな興味関心、解決したい意志を持っていると思いますが、今井さんは若者支援以外で興味があったり、気になる課題はございますか?

 

今井:大きく二つありますね。一つは、福祉とか教育分野の方に対して、社会参加の視点が欠けているように感じることです。支援の現場に出ると感じるんですが、支援される側ってあまり力がないと言いますか、支援「する側」と「される側」に上下関係みたいなものが出来上がってることが多くありませんか? 本来、子どもたちや若年層の子たちってすごく力を持っていると思うんです。ですから、彼らの社会参加をいかに作っていけるかどうかが、福祉・教育の分野でしなくちゃいけないことなのかなと個人的には考えています。

 

もう一つは、若手の子たちがNPOを盛り上げていける社会を作っていく必要性があると思いますね。今本当に若手がいなさすぎて、正直な話、中堅のNPOばかりが育つのはどうなのかなとも思うんです。

 

例えば今社会ですごく嫌な事が起こっていたとして、それを解決してほしいとD×Pに大量の寄付が集まったとします。それはそれでいいことなんですが、多様性はないんですよね。D×Pが嫌いな若者、合わない若者もいるんです。どの現場にも相性のいい悪いってのは必ずありますから、D×Pだけが育つのは本当によくない。いろんなNPOが出てきて多様性に溢れる必要はあると思うので、その実現のために何かしたいなという気持ちはあります。

 

小山:NPO間での貧富の差、力の差、みたいなことですよね。認定NPOになればどんどん寄付も集まりやすくなってくるんですけど、そこに行くまでの、特に立ち上げの段階でとても難しさがあると思います。私たちもF,Labを通して立ち上げ間もないNPOと関わらせていただいていますが、やはりなかなか資金調達、事業を作る事が難しくて、専業でNPOが出来るようになる前に燃え尽きちゃう……なんてこともあります。

 

もちろん定年退職してある程度余裕のある方がNPOを作られるのも素敵だと思いますよ。でも、若い人たちがこれからの社会をなんとか変えていきたい、良くしていきたいという気持ちでNPOを立ち上げ、そこにお金が集まるような仕組みや風土を私たちは作っていきたいんです。ぜひD×Pさんと一緒に、実現を目指したいと思っています。

 

今井:本当にそうですね。政府も課題に追われて対応が追いつかなくなってきているので、多種多様ないろんなNPOが出て来てほしいところです。

 

寺戸:今井さん、ありがとうございます。続いてはまゆさん。Giftの目指す世界を教えていただけたらと思います。

 

小山:一般の方が社会課題にもっと興味や関心を持ってくれるような雰囲気を作っていきたいですね。いろんな企業や個人が出せる範囲でいいのでNPOに支援する。まるでスポーツチームのサポーターのように1人1NPO応援する感覚ですね。地域とか町内とか、スタートは小さなところからでいいので、もっと自然に、当たり前に寄付や社会貢献ができる社会風土を少しずつ広げていきたいです。

 

それと共に、F,Labももっと全国に広げていきたいです。先ほど今井さんがおっしゃった様に、情報公開ってすごく大変で、でもすごく大切でもあって。その割にNPOが経営を学ぶ場ってほとんどないんです。だからこそ、F,Labを通してまずはしっかり会計や経営の知識を身につけて欲しい。財務の透明性を高め、自分たちが何を目指しているのかを充分に伝えていける……そんな団体をもっともっと育てていけるよう、創立10周年へ向け全国にF,Labを広げていきたいですね!

 

今井:素晴らしいですね、本当に。

 

寺戸:まゆさん、ありがとうございます。改めてお二人ともありがとうございました!!

 

【最後に】

今回、こちらの記事のライターを担当してくれた人見尚汰さんが、2022年9月22日に29歳という若さで他界しました。

彼と最後に話をした際に、このイベントのライターとして記事が書けることをとても喜んでくれて、この記事が公開されることもとても楽しみにしてくれていました。ご冥福をお祈りするとともに、彼の意志を引き継いで、こちらの記事を皆様にお届けさせていただきます。 (小山)

 

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