「現状をなんとかしたい」という想いで、目の前の支援活動に必死に取り組むNPO。活動の裏側では、様々な会計業務が発生しています。
「地味なことはなかなか表に見せられないので、頑張っていても、何もしてないように見えてしまうこともある。」
そう話すのは「人間を含む全ての動物に対する差別や抑圧のない世界」を目指し、動物利用問題の解決に取り組むNPO法人「動物解放団体リブ」の代表を務める清水碧(しみずみどり)さん。
会計など事務作業は光の当たりにくい仕事ではありますが、NPOが安定的に活動をしていくためにとても重要です。2021年に前代表から引き継ぎ、会計基盤を整えたことで、安心して事業に向き合えるようになったというみどりさんに、1年間Giftと取り組んできた「会計」にまつわるお話を伺いました。
執筆:西村征輝
編集:寺戸慎也
NPO法人動物解放団体リブ:ミッションは動物解放。「知識と共感で動物解放を早める」というスローガンのもと、 動物利用問題やそれを取り囲む社会状況に関する調査・研究事業、知識と共感を軸にした啓発事業などを通して、動物利用問題の根本解決を目指しています。
代表交代後に、バックオフィスを整える必要があった
–リブに参加してから、すぐに代表になられたのですか?
代表になったのは、リブに参加してから約1年経った後だったと思います。前代表の目黒は、自分が代表には向いていないと自覚しながら、「動物解放」という最終ゴールを明確に主張する団体が必要だと想いから、団体を立ち上げました。
ずっと代表を任せられる人を探していたそうで、参加して割と早いタイミングで代表になりました。
–代表をやってみないかと言われて、正直どんな気持ちでしたか?
「いや、待って」って思いましたよ(笑)「無理じゃない?」と思ったんですけど、目黒が引かなかったんですよ(笑)話しているうちに、私も良くも悪くもあまり肩書きにこだわっていないところがあって、代表になろうと思ったんですよね。
–代表になった当時のリブの活動内容や組織の状態はどうでしたか?
私がリブに入る前は、動物園水族館の日本一周調査を目黒がやっていて、イルカ漁と捕鯨の知識を本(書籍「イルカ・クジラ解放」)にまとめている最中に、代表を交代しました。得意分野が違うので、最初は、私の代で何を大事に事業をやるべきなんだろうという葛藤がありました。
目黒の支援者さんがリブを支えていたので、私が代表になったら「どこの小娘が」みたいに思われるのではないかなど、色々な不安もありました。ただ、当時はバックオフィスが全然整っていなかったので、事業を思いっきりやるために、集中して片付け作業をやっていきました。
会計業務が煩雑すぎて、「自分の報酬は払わなくていいか」と思った
–バックオフィスを整えるにあたって、最初の1年はご自身で会計をされていたと伺いましたが、どんなことが大変でしたか?
大学が経営学部だったので、一通り会計の基礎は分かりましたが、「どういう勘定科目で処理したらいいんだろう?」ってたまに分からないことが出てくると、困りました。NPO特有のものだと検索しても情報がなく、1番のストレスでした。
特に謝礼とか、人に対して支払うものだと、物を買うのと比べて税金や源泉徴収があり、処理が負担になっていました。一時期は「めんどくさいから、自分への報酬は払わなくていいかな」と何回も思ったくらいです。
調べても分からないという状況がストレスだったので、Giftの会計相談会・個別相談会でまとめて解消できたのは本当にありがたかったです。
※会計相談会とは?
会計の悩みや迷いなどを気軽に聞くことのできる、月に1度のオンラインの無料相談会
–会計業務が負担になって、本来やりたい活動に注力できないこともあるので、分からないことをすぐに相談できる相手がいると助かりますよね。
業務自体にかかる時間もそうですが、「未解決のこと」があると精神的な負担になっていたと思います。やりたいことに注力するために、バックオフィスを整える必要がありますが、
小さな団体は会計の専門家を雇うこともできないし、多くの団体が抱えている問題なんだろうなって思います。他の小さなNPOの皆さんもGiftのF.lub(エフラボ)なども受けてもらったらいいなと思います。
※F.labとは?
NPOが寄付を経営に取り入れ、認定NPO法人を目指すためのオンラインプログラム
会計事務所に任せ業務量は1/3以下に。安心して事業に注力できるように
–リブさんは現在会計事務所と契約されていますよね。資金に余裕がないと、代表が会計も担う場合も多いと思いますが、専門家に頼んだ理由を教えてください。
特にNPO法人は、会計で間違ったらダメじゃないですか。勉強をして大体の処理は分かってきましたが、9割分かっても残りの1割が分からない。精神的な負荷が、事業も圧迫しているなって感じていたんです。
私が代表になって「組織化を進める」という方針に変えました。金銭的な負担に対する葛藤もありましたが、信頼できる団体であるということが重要なので、専門家に頼みたいと思い、Giftに相談して、会計事務所を紹介してもらいました。
–会計を専門家に頼むようになり、変化はありましたか?
会計の処理を間違えてしまったらどうしよう、「NPO法人として、アウトだったら」と心配や恐怖感がありましたが、最低限のことをしていれば、あとは会計事務所が処理してくださるので、安心感が全然違います。
自分の中でのイメージでは「縦横5メートル四方のふかふかのベッドがあって、いつ後ろに倒れても大丈夫」みたいな感じです(笑)
会計の処理に時間がかからなくなったというのも大きいですけど、この安心感があるから前を向いて事業のことを考えられるようになったと思います。それまでとは雲泥の差です。
–私たちGiftは会計業務をサポートすることで、団体が「本当にやりたい事業」に注力してほしいと思い、日々活動してますが、リブさんはまさにそれを体現してくださっています。
リブとして、「問題を伝える」「ヴィーガンを支える」「活動家を育成する」という3本柱を軸に私の代で活動していこうと決め切れたのは、会計の不安や恐怖から脱却できたからだと思います。「自分への給料をゼロにしてもいいから会計を頼みたい」そんな気持ちで思い切ってお願いしてよかったなって思います。
–会計業務の量は、どれくらい減りましたか。
月締めの会計処理を元々6〜8時間かけてやっていたんですけど、今は1~2時間ぐらいで終わります。さらに重要なのは1回で完結するってことなんですよね。前は1日かけて作業した上に、未解決の部分が残ってズルズルといってしまってたんですけど、今は一度で終わる。これは大きいです。
–これで合ってるのかな?って不安になっちゃいますよね。
本当にそうなんですよ!
不安になって調べることが精神的負担になっていたので、脱却できたのはすごく大きいです。6時間から2時間って聞いたらたったの3分の1って思うかもしれませんが、精神的負担も含めると、時間以上に気持ちも楽になってます。
活動と会計のことをリンクさせる力が身についてきた
–会計が理解できると、団体の中でのお金の流れを掴めるようになり、資金調達にも変化はありましたか。
会計業務を全部丸投げしてやっていたら、それはそれであまり良くない気もしています。処理してもらった会計情報からお金のことを把握するのも、経営者にとって重要じゃないですか。
最初の1年は自分で会計をやってきて、Giftにも相談しながら理解を深めてきたからこそ、今では活動の規模から収入の予測をしたり、計画を立てたり、どの経費を削減するかといった発想をできるようになってきました。活動とリンクして会計のことを考えられるのは重要だし、少しずつそうした力が身についてきたかなと思います。
–一人で会計をした経験があった上で専門家にお願いしているので、会計を事業に活かせているということですね。
そうですね。今はまだあまり出来ていないんですけど、経費の項目ごとに推移を毎月チェックまでしていけるようになると、安心した土台の上で事業に向かっていけるなと思います。それが理想形ですね。
–寄付者の方々に報告する際にも信頼性が高まると思いますが、リブさんもマンスリーサポーターの数には変化がありましたか。
さらに改善はしていきたいんですけど、自分で会計を見ているからこそ、寄付の活動に活かした事業について説明ができるようになってきました。
去年12月に寄付者限定イベントで活動の説明をしましたが、「寄付を大切に使わせていただいてます」って、その一言に「事実」が含まれているというか、本当にありがたさを感じます。まだ満足していないので、もっと会計情報を開示していきたいなと思ってます。
–会計を見ているからこそ、「寄付を受け取っている」という感覚が強くなりますよね。
本当にそうです。会計を整理して開示できる段階に来たからこそ、さらにその先へ進みたいと思っています。
例えば、マンスリーサポーターが何人いればこんなことが出来ますとか、寄付がこれくらい集まれば、この規模でプロジェクトが出来ますとか、未来のこともしっかりと伝えられ、新しい寄付者の方々に対して説明ができると思っています。
今後はスタッフを雇っていきたいという気持ちがあるので、クリーンな団体であるのは大事だし、発信していきたいです。
–とても素敵ですね、聞いていると応援したくなります。会計について向き合って、さらにチャレンジしているリブさんを、多くの人に知ってもらいたいなと思いました。
私も最初の1年はずっと苦しかったんですよ。会計・バックオフィスを整え、効率化させるような地味なことは、表に見せられないので。
頑張ってやっているんですけど、外からは何もしてないように見えてしまうこともあり、それが辛くて。でも、辛くてもやるしかなかったんですよね。支援者が減ったとしても、それは今やるべきことだって言い聞かせながら対応していました。
税金のことや会計のことがわかってきて、バックオフィス業務のフローが整い、事業でも目指すことが見えてきて、ようやく全部がうまく回り出してきたなと思います。
情報もお金も人も何もない。そんな小さな団体にこそGiftを紹介したい
–最後に、リブさんの今後の展望についてお聞かせください。
「動物利用」の問題は、食事や衣服など本当は全員が関わっている深刻な問題なんですけど、ポジティブなトーンも大事にしながら活動していきたいと考えています。
私たちの活動の中ではヴィーガンの推進が重要なんですけど、ヴィーガンになるというのは相当なライフスタイルの変化が必要なので、家族との食事が今まで通りではなくなったり、葛藤や争いが起きることもあります。でも、そうした体験談も笑いながら紹介していくとか、真面目なことは大前提なんですけど、真面目さの上に「面白さ」「楽しさ」を乗せて、伝えていきたいなとも思ってるんですよね。
西洋的な活動手法をそのまま日本に持ってきて失敗した事例もあるので、日本に適した活動のやり方を模索していて、その内の一つが、明るくポジティブに、ヴィーガンになっていこうよという空気感を作っていくことだと思っているんです。もちろん、深刻な問題を軽視させるような表現という訳ではありません。日本に合った伝え方でヴィーガンを増やして、最終的に、動物が利用されない社会という遠いゴールに向けて走り続けたいなと思ってます。
会計の部分では、計画を立て、収入を上げて、組織化を進めていくことで、社会的インパクトを与えられる団体になれると思っています。改善したいことが山ほどあるので、本当に出来るのかなと不安になることもありますけど、一つ一つやっていきます。
–最後に何か伝えたいということはありますか?
私の勝手な妄想なんですけど、Giftがやっていることはすごい大事なことで、行政から委託されてもいいと思ってるんです。大きな団体はお金があるから色々と頼めていいけれど、最初は団体の規模も小さくて情報もお金も人も何もないわたちたちのような団体こそ、Giftの存在が必要だと思います。
Giftを他のNPOの方にも布教したいです(笑)
–読者の皆さん、言わせてませんからね(笑)
(笑)本当にそれぐらいの気持ちを持っているし、もしいずれ別の動物系の団体が生まれれば、Giftを紹介したいです。
–インタビューにお答えくださり、ありがとうございました!
NPOがお金を理由に夢を諦める、なんてこと、無くなったらいいのに。わたしたちは「Giftの循環が拡がる社会」を目指して、NPOの財務基盤を整えるサポートをしています。毎年150件程のNPOの相談を受け、Giftが支援するNPOに対して総額5千万円以上の寄付や助成金等の資金調達のサポートをしてきました。
寄付をはじめとした、有形無形を問わない資金や資源(ギフト)を、あらゆるNPOに巡らせるために、わたしたちの活動を応援してください。
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会計相談の事例をさらに知りたい方は、こちらの記事をご覧ください。