第二弾:経済とは「共感による分業」
~お金は目的ではなく、手段~
株式会社eumo(ユーモ)の新井和宏さんへのインタビュー記事第二弾をお届けいたします。
前回の記事(自分を生きる(Well-being)~組織を支える個人から、個人を支える組織へ~)では、時代の変動とともに、組織や教育のあり方を変えていかないといけない、それには大人が「これは、こういうものだ」という考えを改めていく必要があるという話をしてきました。
今回からは暗黙の了解となっている「お金」について、話していきます。
第一回目:お金を通して考える、これからの組織・教育
第二回目:経済とは「共感による分業」〜お金は目的ではなく、手段〜←今回はこちら
第三回目:与えるから始まるGift経済、子どもの疑問に応えることから
暗黙化している「お金」を紐解く
寺戸:子どもたちの疑問に応えることが、社会について改めて考えていくことにもつながると感じました。
新しいお金の教科書を読んで、「お金」について正面から考えることは、生きること、働くことについて考えることになると感じました。さらに【なぜ働かないといけないのか?】という問いに答えていくことも大事だと思います。
新井さん:大事ですよね。自分一人だけで豊かに暮らしていくことはできないんですよね。全部できるんだったら働かなくていいんじゃないか、とは思います。
ただ、他者が【自分の代わりにやってくれていること】をイメージできないと、損得だけで物事を考える人ばかりになってきます。
例えば、家族に対しては【損得】で話をしないでしょう?子どものころはどっちがお年玉たくさんもらっているとか話すくらいで笑 でも家族外の話になると、損得で物を考え出す。
経済は【共感による分業】なんですよね。
誰かが代わりにやってくれているという想像力がなくなっている。それは、お金を払えば買えると思っているから、ですよね。この本にも書いていますが、お金自体に価値があるわけではありません。
では、何に価値があるかというと、みんなが何かをやってくれているということなんですよ。何かしてくれていることに対して、感謝がないといけないのに、いつの間にかお金を持っている人がえらいという社会になってしまっているのだと思います。
お金に対する考え方の、リハビリしている
新井さん:僕は、この本を出して、「リハビリ」をしているだけなんです。お金というものが余りにも強すぎてバランズが悪くなっているので、修正しようとしているだけなんです。
お金が強大な権力を持ち、お金がお金を増やす方法が一番いいとなったら、誰も第一生産者はいなくなってしまいますよね。そのことが今の社会をよくしているとしては到底思えません。
そこで、リハビリツール的に「eumo」を提供することによって、人々にバランス感覚を取り戻したいと思っています。
ただ、資本主義そのものが悪いと思っていなくって、根本のお金が変われば、変わるだろうと思っています。お金の特性を少し変えていれば、変わるかもしれない。暗黙の了解になっているお金が資本主義のベースになっているからバランスが崩れている。
最初から良い人/悪い人がいるわけではなく、その人の良い面がでているか、悪い面が出ているかだけだと思います。
人のいい面がでてくるお金をデザインしてあげれば、資本主義も変わると思います。
小山:お金は、単なる流通手段でしかないと思っています。循環させるべきものなのに、滞ってしまっている。「腐るお金」というアイデアには共感していて、流通量としては十分なのにいきわたっていないことに課題を感じています。この本に書いてあることを読んで、「よくぞ新井さん言ってくださいました!」と思いました。
新井さん:僕はこの本に書いてあることこそが「金融リテラシー」だと思っています。若い人たちに、疑問を持ってもらいたいです。僕自身ができなくても、若い人が自分にも何かできるかもと思ってくれたらそれでいいんです。
本質的な問いに応えるために、色々試しながら、考えてみてほしいと思います。
まとめ
経済というのは、共感による協働であり、本来お金は、他者に何かをやってもらうための手段です。ただ、目的と手段が逆転してしまい、今はお金を「増やす」ことに誰もが躍起になっています。
新井さんご自身が、お金優位の社会に対してバランスを取り戻すために「あたらしいお金の教科書」を書かれたり、eumoを発行されていること、そのリハビリをされているとお話しされていたのが非常に印象的でした。
自身の損得ではなく、他者に対して感謝をもってお金を使っていく、そういう循環が生まれていくとよりよい社会になっていくのではないか。次回はそんな想いの循環、Giftが循環する社会について考えていきたいと思います。
第三回目の記事はこちら:与えるから始まるGift経済、子どもの疑問に応えることから
【新井和宏さんプロフィール】
1968年生まれ。東京理科大学卒。1992年住友信託銀行(現・三井住友信託銀行)入社、2000年バークレイズ・グローバル・インベスターズ(現・ブラックロック・ジャパン)入社。公的年金などを中心に、多岐にわたる運用業務に従事。2007~2008年、大病とリーマン・ショックをきっかけに、それまで信奉してきた金融工学、数式に則った投資、金融市場のあり方に疑問を持つようになる。2008年11月、鎌倉投信株式会社を元同僚と創業。2010年3月より運用を開始した投資信託「結い2101」の運用責任者として活躍した。鎌倉投信退職後の2018年9月、株式会社eumo(ユーモ)を設立。
近著に「あたらしいお金の教科書:ありがとうをはこぶお金、やさしさがめぐる社会」その他『投資は「きれいごと」で成功する』(ダイヤモンド社)、『持続可能な資本主義』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)、『幸せな人は「お金」と「働く」を知っている』(イーストプレス)、『共感資本社会を生きる』(共著・ダイヤモンド社)