第三弾:与えるから始まるGift経済
〜子どもの疑問に応えることから~
株式会社eumo(ユーモ)の新井和宏さんへのインタビュー記事第三弾をお届けいたします。
前回の記事(~経済とは「共感による分業」 お金は目的ではなく、手段~)では、お金は「共感による分業」のための手段であって目的ではないはずですが、それが暗黙化している。その暗黙となっている状態をリハビリするために「あたらしいお金の教科書」を書いたとお話ししてくださいました。
最終回となる今回は、Gift経済、お金によって社会に住む僕たちが、お互いに活かし合うために必要なことを話していきました。
第一回目:お金を通して考える、これからの組織・教育
第二回目:経済とは「共感による分業」〜お金は目的ではなく、手段〜
第三回目:与えるから始まるGift経済、子どもの疑問に応えることから ←今回はこちら
お金は集めることと、活かすことしかできない
小山:お金について、ちゃんと伝えられる大人がいないところ、この本を読みながら「よくぞ新井さん言っていただいた!」と思いました。今の社会は、お金が循環していない、活きた使われ方をしていないと感じます。
新井さん:お金は何かという本質的な問いに応えるため、若い人や子どもたちに考えさせるためにあらゆる策を講じる必要があると考えています。その一つとしてお金を変えてみたらどうなるんだろうと。
みんな勘違いしているんですが、根本的な考え方としてお金って増えないんですよね。お金を増やせるのは「日銀」、あとひとりだけお金を増やせるのは誰だと思いますか?
それは「手品師」だけなんですよ。
お金は増えるのではなく「集める」「活かす」ことしかできないんです。Gift経済って何かというと「先に渡せばいい」んです。相手を信じて、先に渡す。手段としては簡単だけど、それを伝えるために私はこの本を書かないといけなかった。
さらに寄付というのは、自分への投資だと考えています。寄付することから、自分の経験だけでは、得られないものが得られること、そこに意味があると思っています。
お金によって、それぞれが活かしあえる社会へ
小山:社会の中で、一人一人が自分にできることがなんなのかと考えて、貢献しあえる。そういう社会になると、お金は生きた循環を産むと思います。そういう生きたお金の使い方を伝えられる大人が必要だと思います。
新井さん:「お金を出してくれたから、ありがとう」というのは、僕はもうないと思っています。お金を出して、何か代わりにやってくれること、その活動を継続してもらうためにお金を払うわけです。お金出したから、ありがとうをくださいはそもそもおかしいんですよ。
お金を出したからサービスは提供されるはずと考えるのが常態化しているでしょう。それを気に入った/気に入らないを話している。違うんですよね。それは、「共感による分業」じゃないですよね。
働くことを、考える
寺戸:働くことと、生きることを直結させたいなとすごい思っています。「お金を稼ぐ」ことが目的になっていると思っていて。お金を稼ぐためだけに会社に行くというデザインを変えていけば、働きやすくなる。潜在的には、みんなが社会のために貢献したいと思っていると思います。
新井さん:子どもたちに働くことを考えさせないといけないと思います。よく子どもたちに「年収一千万円もらえて、一生トイレ掃除でも良いですか?」と聞くんです。
トイレ掃除が悪いと言っているじゃなくて、年収に関わらずトイレ掃除してくれる人がいないと、社会は成り立たないわけですよね。年収によって、仕事の上下は決まらないんですよ。
真っ直ぐにぶつけないといけないです。子ども達は純粋だから、ぶつければしっかりと返してくれます。大人が避けてちゃいけないですよね、この部分は。
社会は、諦めの悪い人が作っている
新井さん:でもね、こういうことを話すのが僕だけじゃダメなんですよね。
多くの大人たちが、自分も誤魔化さず、子ども達にも嘘をつかずにちゃんとお金について向き合うことをやらないと。全然子ども達を幸せにしていないですよね。お金については、「あたかもゲームだ」みたいな話をし始める人もいるけど。まぁ色々あって良いんですけど、もうちょっと大人が、大人らしくならないといけないと思います。
今必要なのは、学校よりも寺子屋なんだろうなぁと思います。時間をかけて、子どもたちに丁寧に向き合うことは、今の学校の先生にはできないですよね。
寺戸:子ども達に時間をかけるということが、足りてないと感じます。例えば悪いことをしたとか、何か課題がある時にも、子どもと向き合わず、管理上の問題をスルーしたりすることがあるように思います。
新井さん:この本では、全文ルビを振って、子どもでも読めるようにしています。
知りたい子はどこまでもわかろうとします。子どもには分からないというのは、ただの大人の勝手ですよね。僕は子どもに対しては諦めない。大人より、よくわかってる子供はいますよ。なので、年金の問題も書いています。やり続けるしかないですよね。あらゆる手段を講じて、伝えていくしかないと思います。
寺戸:新井さんにインタビューさせていただき、僕自身も諦めずに伝え続けていこうと思いました。
新井さん:世の中は優秀な人が作っているんではなくって「諦めの悪い人」が作っているんですよ。頭いい人は、簡単に割り切ってやめてしまうでしょう。
大切なものを大切にできていなくって、お金だけを大事にしたいというのは、違うと思います。
まとめ
3回に渡って連載してまいりましたが、新井さんのインタビュー記事はこれで一旦終了です。
「あたらしいお金の教科書」のコンセプトについて、新井さんは『日本のタブーである「食卓でお金の話を」がこの本のテーマになっている』とおっしゃっていました。
大人も分からない、子供もわからない。
だから、一緒に学ぶ。
この「あたらしいお金の教科書」は、お金のことを考える第一歩に最適な書籍になっています。ぜひみなさんも家族と、同僚と、友人たちと、お金について語り合ってみてください。
それでは、最後までお読みいただきましてありがとうございました。
【新井和宏さんプロフィール】
1968年生まれ。東京理科大学卒。1992年住友信託銀行(現・三井住友信託銀行)入社、2000年バークレイズ・グローバル・インベスターズ(現・ブラックロック・ジャパン)入社。公的年金などを中心に、多岐にわたる運用業務に従事。2007~2008年、大病とリーマン・ショックをきっかけに、それまで信奉してきた金融工学、数式に則った投資、金融市場のあり方に疑問を持つようになる。2008年11月、鎌倉投信株式会社を元同僚と創業。2010年3月より運用を開始した投資信託「結い2101」の運用責任者として活躍した。鎌倉投信退職後の2018年9月、株式会社eumo(ユーモ)を設立。
近著に「あたらしいお金の教科書:ありがとうをはこぶお金、やさしさがめぐる社会」その他『投資は「きれいごと」で成功する』(ダイヤモンド社)、『持続可能な資本主義』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)、『幸せな人は「お金」と「働く」を知っている』(イーストプレス)、『共感資本社会を生きる』(共著・ダイヤモンド社)