『「がん」とこころのケアについての対話の場with I FOR YOU Japan 理事長 森一郎さん』
~Dialogue on IssueVol.07~
Dialogue on Issueは「これまであまり注目されてこなかった社会の問題」や「問題としては知られているものの、まだあまり話されていないこと」を話し合い、より良い社会の可能性を探求する場です。
今回は、がんの患者・家族・遺族のこころを支え孤独を癒す手助けをしているI FOR YOU Japan(以下、IFY)の理事長、森一郎さんにお話をお伺いして対話をするオンラインイベントを開催しました。
司会・進行:遠藤龍、一木逸人
ゲスト:森一郎
Dialogue on Issueについて
「社会には話し合われてすらいない課題がある。」
これは私たちNPO法人Giftが様々なNPO団体さんと関わる中で抱いている実感です。
私たちは様々な団体さんと関わり、「初めて聞く課題のこと」や「聞いたことはあるけれど、まだあまり話されていないこと」などを何度も教えていただきました。
社会を少しでもより良いものにしたいとGiftに関わってくださるみなさんと話し合うことで、より良い未来に向けて、新しい社会の仕組みを考えていきたいと思います。話し合いだけで課題が解決することはないかもしれませんが、問題意識をすり合わせていく対話を経て、人と人がつながる力は、社会を変えうるものだと私たちは感じています。
「より良い未来を考えていく関係づくり」を皆さんと行えたら嬉しいです。
遠藤龍、一木逸人
ゲスト:森一郎
I For Youの活動について
遠藤:まず、自己紹介をお願いしてもよろしいでしょうか。
森:初めまして、I For You(以下IFY)の森と申します。今日はよろしくお願いいたします。元々は内科医としてがんの治療を長年してきまして、最近はホスピスで緩和ケアをしています。地域ではIFYの活動をしていますので、今日はこの活動を知っていただきたいです。
遠藤:改めて、IFYさんがどんな活動をしているのかをお聞きしてもよろしいでしょうか。
森:IFYは、医療者と市民の方達が協力して地域の問題を取り組むというボランティア団体で、主に医療に関する様々な問題に焦点を当てて活動しています。
具体的には、がんの患者さんの直面している様々な問題を解決するというか、少しでも辛さを取り除けないかということで、ピアサポートサロンを開催しています。ここでは、患者さんは患者さん同士、ご家族はご家族同士、ご遺族はご遺族同士で話ができる場所を作るという活動をしています。ゆくゆくは活動を広げていきたいと思っています。
「ちゃんとその人を知る」ためのケアが必要
森:抗がん剤や手術といった治療をする際、患者さんたちは一生懸命に治療を受けるんですね。患者さんから何も言われなかったら、医療者はどんどん治療を進めて行きます。ただ、その過程の中で「ご飯を食べられない」とか「気力がなくなっちゃう」とか、そういう理由で治療ができなくなってしまうことを何度も見てきました。心配な気持ちがあるとか、誰にも相談できないとか、眠れないとか、体調が戻っていないことを、患者さんは先生に話すことができずにいるんです。
「教科書通りだったら次はこの治療になるけれども、このタイミングでこの治療を行ってもいいのか」という話を、責任者をやっていたときに担当の医師とよく話しました。患者さんの状況、やらないといけないことが残っていないか、今は治療をせずに旅行に行った方がいい時期なのでは、この人は何人暮らしで、どういった生活をしているのか、といったことが大切だと感じていました。「まずはちゃんとその人を知らないと、ちゃんとした治療はできない」と思っていました。
ただ薬を使って治療を行うのではなく、患者さんのことを考えた医療をちゃんとやらなければと思いまして、緩和ケアという医療の領域を勉強するためにホスピスに移りました。ホスピスには体の状態が悪くなった人たちが入院してきますが、痛みを緩和してから改めてお話を聞くと、初めてこんなに話を聞いてもらったとか、こんなに優しい医療者たちがいたのか、早く来ればよかったと、患者さんはそういう話をされます。ホスピスに来てよかったですねと私は言うのですが、その前に満足な治療を受けられずに体調を壊してしまった人がかなりいることを感じました。ホスピスで働いていて僕等は感謝されますけれども、何の解決にもなっていないなと思います。
僕としては大変な思いをされている患者さんに何かできないかなと思って緩和ケアに移ったわけですけども、緩和ケアに居ても結局そういう人たちはなくなりません。病院ではなくて、その前の段階で正しい医療情報や心のケアが必要だと考えて、IFYを立ち上げました。
遠藤:ありがとうございます。内科医でがん治療をなさっていたときは、「病気は診る」けれども、「患者さん自身を診る」ことが難しかったのでしょうか。
森:やはり、そういう風になりがちですね。決められた治療をただやるだけだと、患者さんは救われないです。「どうですか、最近は?」とその人自身を診ないといけないのですが、受け持つ患者さんの人数が多いためにできないこともあります。
遠藤:私自身も風邪で病院に行ったときに、あっさりと診断が出て驚くことがありました。風邪だったらまだしも、自分の命に関わるような病気を診てもらうときであっても、お医者さんにとっては一人一人の患者さんにあまり時間をかけられないという難しさがあったんですね。
森:おっしゃる通りだと思います。
医療サポートだけでない、同じ想いを抱えるもの同士の対話の場
遠藤:病院を離れた場所での患者さんサポートが大事だという考えに至った経緯について、詳しく教えてください。
森:ある患者さんが2~3カ月間、強い痛みを我慢して治療していましたが、痛みが取れずこれ以上治療は続けられないと思い、緩和ケアに来られました。薬を変えたら3時間で痛みが取れてしまい、「この3カ月は何だったのでしょうか」と泣かれました。まずは痛みをとって抗がん剤治療をしましょうよと言いたいけれども、患者さんはそういった選択があることを知りません。ですので、僕としては苦しんでいる状況であれば、例えばIFYのサロンに来ていただくのがいいのではないかと思います。
IFYのサロンは、医療者から患者さんへの医療のアドバイスを行う側面もありますが、一番は同じ辛い想いをしている人同士の対話の場になります。
患者さんの中には、ご家族に心配をかけたくなくて、自分の気持ちをあまり言えない方もいらっしゃる。ご家族は患者さんを傷つけてしまわないだろうかと、患者さんに本当のことを聞けない。そういったジレンマがありますので、患者さん同士で話したり家族さん同士で話せたことがよかった、とおっしゃってもらえます。
一木:IFYのサロンに参加すると、患者さんとご家族は話すことが出来るようになったりするのでしょうか。
森:元々ご家族とちゃんと会話できている人が半分ぐらい、そうじゃない人が半分くらいいらっしゃいます。患者さんがサロンに行っているとご家族が知ることが、少しオープンな感じで会話をするキッカケになっているという印象はありますね。IFYのサロンに行くことで塞ぎ込んでいた患者さんが明るくなられ、それがきっかけで家族間でコミュニケーションが生まれるのだと思います。サロンに一人で来ていた方が、途中からは家族が送ってくれましたということもあり、家族間でも会話が進んでいるのかなと思います。
I For You=相手の幸せを願う想いが、患者さんを支える
遠藤:日々活動されている中で、患者さんやご家族にとっての幸せとはどんな姿だと思いますか。
森:患者さん、ご家族、遺族のみなさんが幸せになってほしいと思っています。
決め手みたいなものは人それぞれありますけれど、大きいのはやはり人の支えだと思います。無条件で誰かに支えられていたり、想われていたりすることが、一番大きいと思います。どんなに辛くても、自分を大切にしてくれた人の存在が心の支えになります。
相手のことを想う言葉がけや行動がすごく大切で、それができる社会になってほしい。それを願ってI FOR YOUという団体名にしています。あなたのために何かできないか、何かやっていきましょう、ということを願っています。
IFYのサロンは、こういったことをみんなで話し合いながら、感じていく場所になっていると思います。
森さんとの対談の後、以下の4つのブレイクアウトルームに分かれて、40分間の対話を行いました。
①働く(活動する)なかで、あなたが難しさや葛藤をいだいたときは?
②急な事実に向かい合わないといけなくなった時にどうする?
③限られた時間の中であなたが残したいものは?どう在りたいか?
④雑談部屋(休憩部屋)
「Dialogue on Issue」では、社会であまり知られていない課題に取り組むNPO等を招きお話を聞いた後に、参加者の皆さんと対話の場を開いています。
今後も継続して開催予定ですので、ぜひご参加ください。