「新しい価値を生む方法論『Foresight Creation』と、組織における実践〜」松波晴人さん(大阪大学フォーサイト株式会社)

 

皆さん、こんにちは。認定NPO法人Giftです。

Circular Design College(サーキュラー・デザイン・カレッジ)は、想いやお金が循環する社会づくりを探求する場です。これまでの価値観を抜け出して、一歩先の取り組みを行うゲストからビジネスや日常の中で新しい選択肢を得るための視点や着眼点を学びます。

第二回目のゲストは松波晴人さん(大阪大学フォーサイト株式会社 代表取締役)、タイトルは「新しい価値を生む方法論『Foresight  Creation』と、組織における実践〜」です。

NPOでも活用できる「新しい価値の生み出し方」についてお話を伺いました。

 

新しい価値の創造や社会課題解決ができる人材を育てる

 

大阪大学の子会社(大阪大学フォーサイト株式会社)を1年半前につくりました。ミッションは世界にスケールする新価値を「場の情報」と「学術的な知」を元に共創し、顧客に成功をもたらすことです。大企業を相手にすることが多いですが、企業の「新価値創造」をビジネスとして行っています。NPOの皆さんにも参考になる部分があると思います。

私は新卒で大阪ガスに勤めていましたが、会社から留学し、デザインと心理学を学びました。学んできたことに「行動観察」という名前をつけて実践していき、大阪ガスでも「行動観察研究所」というものができて、そこの所長を務めていました。3年半ほど前に大阪ガスを退職し、大阪大学共創機構の客員教授になりました。

新しい価値や社会課題の解決が求められているのに、人材を育成する仕組みがなかったため「Foresight School」を立ち上げました。

 

言語化されていない潜在的ニーズから新しい価値を創造する

 

高齢者をターゲットにした新しいサービスを始めたいとします。まずは、様々な事実(=Fact)を集めます。次に洞察(=insight)をして、次に未来の景色(=foresight)、展望を導き出します。

一番初めに、高齢者の方の行動観察をします。1日の生活に密着して、一人一人の生活を事細かに分析します。そのあとに、仮説を考えます。実際に調査をした際、お一人は飼っている犬を「犬の幼稚園」に通わせておられました。もうお一人の方にお話を聞いているときに北海道の新巻ジャケが届きました。自身で食べるかと思いきや、ご近所に配っているということです。

こういう事実から洞察をするのですが、最初は高齢者は「サービスを受けることを望んでいる」と想定していたのですが、「高齢者はサービス提供することを望んでいるのではないか」と洞察しました。人に喜んでもらうために、お金と時間を使っている人が多かったんです。

そうするとforesightは変わってきます。「高齢者が他者に貢献するサービス」を考えました。よくforesightから考えることもありますが、それはあまりお勧めしません。insight=どういう問題を解かないといけないのかから考えることが大事です。

これまではアンケート、グループインタビューをしていましたが、大体「こういうのが欲しい」ということはやり尽くされていて、「言語化される部分」は商品化されてしまっています。なので、「こういうもの」と言語化できない部分を把握する必要があります。

氷山モデルの潜在的ニーズに気づいていく必要があって、それによって新しい価値が生まれます。少人数、一人でもいいので新たな仮説を得ることが必要だと言い始められています。

 

同じ土俵の中で強くなる「カイゼン」、ルールを変える「イノベーション」

 

新しい価値を創造したとき、これまではその価値が長続きしましたが、今は価値が長続きしません。変化が激しくなってしまったので、組織として安定を得るには、新しい価値を産み続けないといけないようになりました。

「新しい価値を産み続ける」ということをやる必要ができていますが、それをどうやって行うのか、というところで多くの組織が困っています。

ドラッカーは、企業の基本的な機能は2つしかないと言っています。1つめはマーケティング。ここでいうマーケティングは「ドリンクをどう売るか?」などという意味ではなく、顧客は何を求めているのかから考える、という意味です。2つめは、イノベーションです。技術革新のことではなく、ドラッカーの定義では「新しい満足」を生み出すことです。日本ではなかなかイノベーションが出てきていませんが、重要なことです。

「カイゼン」は相撲という「土俵」のなかで強くなるべく努力をする、枠組みの中での最適化の話です。全く違うルールのスポーツをつくろう、土俵から変えてしまおうというのがイノベーションです。

ルールから変わると、何が強みかが全て変わってしまいます。なので、イノベーションを起こす側に回らないと疲弊するし、常に下請けに回ってしまう、と言えます。ルールが相撲から、サッカーに変わったとしたら、例えば頑張って体重を増やしたのに不利になってしまう、ということが起きます。

オックスフォード大学のオズボーンという方が、2030年に必要とされる能力と知識を上げています。1位は戦略的学習力。変化が激しいので学び続けないといけなくなりました。2位は心理学です。「価値」は、主観の要素が大きいですよね。なので人間の心理をよく理解しておかないといけません。4位には「社会的洞察力」が入ってきて、さらに社会学、人類学、独創性やクリエイティビティなどが入ってきます。皆さんもこのように感じていっしゃると思いますが、

教えてくれるところがないのでそこを我々がやろうとしています、ということなんです。

IBMが1700人位のCEOと公共機関のリーダーにインタビューして調べた調査があります。業績の高い会社は3つ違いがあって、一次情報の取得、気づきからインサイトを得る、インサイトを元に行動を起こす、そうしたことを行っている企業は業績が高いのです。

 

イノベーションとは「価値」「技術」「ビジネスモデル」のどれか1つに新規性があること

 

価値を考えるとき、どういう順番で考えないといけないかという話をします。

まずとにかく「価値」、どういうニーズがあるかを考えないといけません。その次に、どうやってその価値を提供できるのかを考えます。企業の場合はそれが「技術」になります。その次に初めて、ビジネスモデルが出てきます。皆さんこの部分を結構皆さん間違えてしまいます。とにかくビジネスモデルを考えましょう!という方が出てきます。ラーメン屋さんにいくのは美味しいラーメンがあるからですが、美味しいラーメンが作れてないのにどうやってチェーン展開しようか考えても意味がないですよね。

会社によっては『技術が全てだ!』と言って、この技術を使って何かできないかと考えるのですが、それはあまり筋が良くありません。

現場にすごく価値があって、技術もあるんだけどお金が回る仕組みが見えにくいというのがNPOの課題かと思います。ビジネスモデルも開発されていくものなので、いずれはうまく解決していくのではないかと思いますが、NPOの課題はいかにこのビジネスモデルを作るのかということかもしれません。

イノベーションは全てが新しい必要はなく、この3つのどこかに新規性があればいいのです。

 

新価値創造のプロセスを整理した「Foresight  Creation」

 

「デザイン思考」はスタンフォード大学のデザインスクールで提唱された考え方です。私もデザインスクールにいき、ディスカッションしましたが、思うほど言語化されていないんですね。このデザインスクールにはとても優秀な人材が集まってきていますので、それほど言語化する必要がないのだろうと思います。

もちろん全てを言語化することはできないですが、もっと言語化できるはずだと思い、「Foresight Creation」として整理しました。

「Foresight Creation」はどういう流れで考えないといけないかというプロセスと、そのプロセスを実践するために必要な8つの能力を「8つの玉」として整理し、それぞれのトレーニング方法も開発しています。

デザイン思考では「共感せよ」とされている部分を、①着眼力(4つの心理学的バイアスをどう乗り越えていくか)と②アブダクション(仮説的推論)という2つの玉を会得することによって共感できるようになります。

大きい会社では、コンサルタントを雇って精緻な計画を立てたけれどアクションを取らないということが起きます。でも、アクションを取らないと学びがゼロになってしまいます。うまく行かなかったとしても、そこから学びを得ることが最終的に成功するために重要です。

一番大事なのは、このサイクルをぐるぐる回すことです。シリコンバレーでは、このサイクルを1日30サイクル回す、という会社も存在します。

 

新価値創造に必要なのは、「価値」のリフレームと、どういう文化を作りたいかという「意思」

 

Foresight  Creation」の全てを説明する時間はないので、重要ないくつかの玉について解説します。4つ目の玉「リフレーム」はとても重要な玉です。リフレームとは、「ビジネスにおいて常識とされていた解釈やソリューションの枠組み(フレーム)を新しい視点や発想で前向きに作り直すこと」を意味します

今、みなさんにアンケートが配られて、「オーディオに求めるものは何ですか?」と聞かれたら何と答えますか?

このアンケートは、数十年前に調査しても、今調査しても結果は常に音質が一位になります。「もっと良い音を提供しよう」というのは重要なことですが、これは既存の枠組みの「改善」で、あり、「イノベーション」ではありません。

リビングでしっかりとしたオーディオで音楽を楽しむ時代に新しい商品がウォークマンであり、このウォークマンが提供した価値は「外で音楽を楽しもう」というものです。ウォークマンより、家でレコードを聞いた方が音はいいです。つまり、イノベーションというのは、既存の価値軸(今回は音質)の100点が80点に下がったとしても、新しい価値の縦軸(外で音楽を楽しむ)を生み出して、その価値で100点を取りに行こうとすることです。これが価値のリフレームです。

ただ、真面目な会社だと、「顧客のニーズ1位である音質が下がるような商品を出してはいけない」という人が出てきます。ウォークマンも発売前の調査で「全く売れない」という結果でしたし、役員は発売に全員反対していました。ただ、売り出したら爆発的なヒットになりました。なぜこういうことが起こるのでしょうか?それは、新しい価値を産むというのは新しい文化を生み出すという側面があるからです。今は、「音楽を聴きながら外を歩く」というのは普通ですが、当時はそんな文化がなかったため、「これをつけて外で音楽を聴きながら歩きますか?」と聞かれたら、「そういうことはしません」とほとんどの人が答えるのです。私もウォークマンをいち早く買ったくちですが、音楽を聴きながら街を歩くのはとても勇気がいりました。

結局のところ、新しい価値を生むときには「どういう文化を作りたいか」という皆さんの意思が大事だということです。

「ビデオデッキ」が提供する価値って何でしょうか。「録画できること」は価値ではありません。それは「仕様」です。ビデオデッキが提供する価値は「Time Shift=番組を観る時間をずらすことができる」ということです。人はすぐに価値と仕様を混同してしまいます。新幹線の価値は、時速300kmのスピードが出ることではなく、大阪から東京まで2時間半でいけるということです。

価値の特徴を3つ挙げます。

1つ目は「お客さまのためになるもの」ということです。2つ目は「価値は主観的なものである」ということ。価値が「客観的なもの」であれば科学の対象にしやすいところですが、残念ながらそうではありません。最後の3つ目は「価値はお金と引き換えに得るもの」だということです。これはNPOの価値観とは異なるかもしれませんが、NPOも何らかの形でキャッシュが回らないと活動が続けられませんので、それ自体が目的ではなくてもエコシステムとしては必要です。

 

Fact(=一次情報)だけでなく、アカデミックなknowledge(=知識・教養)と合わせて、insight(=本質的な課題)を導く

 

 

本講義で一番重要なのがこのスライドです。新価値創造のために、まず集めないといけないのは、場で観察されるFact(=一次情報)です。Factとアカデミックなknowledge(=知見・教養)を統合することによってinsight(=本質的課題)を導きます。行動観察というと、「場で観察した結果をレポートすること」と思われがちですが、本当は必ずアカデミックな knowledgeを用いる必要があります

私が大学で起業したのは、膨大なknowledgeがあるからです。大阪大学には11学部あって、ありとあらゆる分野の最新の知見を持った先生方がいます。

この「FactKnowledgeからInsightを導き出すことを」を、アブダクション(仮説的推論)と呼びます。このアブダクションを行っているのは、お医者さんです。insightは「診断」です。もし診断が間違ってたら、その後どれだけハイテクな薬や装置を使っても、治りません。それだけ、ForesightよりもInsightが重要なのです。また、お医者さんが診断を出せるのはknowledgeがあるからです。医学知識のない私がいくらfactを集めて血液のデータを眺めても、診断は出せません。それだけ、knowledgeは重要なのです。。

アインシュタインの言葉です。みなさんは、「自分の命がかかった問題を60分でとかないといけない」状況になれば、その60分をどう使いますか?普通はですね、その問題を解くのに60分使いますよね。

アインシュタインは55分(ほとんどの時間)を「問題を定義すること」に使い、残りの5分をその問題を解くことに使うと言いました。要はinsightを出すのにほとんどの時間を使うということですね。ドラッカーも『重要なことは正しい答えを見つけることではない。正しい問いを探すことである。』と、同じことを言っています。問いというのはinsightのことです。insightを出すのが得意な人で言うと「シャーロックホームズ」がいますね。

 

ワトソンはホームズの相棒で常に一緒にいますし、医者なので優秀な人ですが、「普通に考えたらAさんが犯人だよね」とリニアな発想をします。一方、シャーロック・ホームズは「いや違う、犯人はBさんだ」と意外な真相を導き出します。シャーロック・ホームズはご存知の通り、観察が得意で、博識です。皆さん、シャーロック・ホームズになっていく必要があるということです。

ワトソンは氷山の上に見えている「みんなが知っている事実」それぞれについて一つ一つ手を打っていきます。それがダメだということではないんですが、それは「カイゼン」のアプローチです。一方で、シャーロック・ホームズはワトソンが気づいていない氷山の下に眠っているような事実までを把握して、insightを導きます

ワトソンの行っている「リニア思考」は、簡単に説明すると「受験勉強」と同じ思考法です。受験では、「限られた時間の中で正解をたくさん出せる」と勝てます。一方、ホームズの実践している「リフレーム思考」というのは画期的さが求められます。新価値に正解はありません。大事なのは、新しくて妥当性のある仮説(=正しい問い)を見つけることです。なので、真面目さよりも、真剣さが必要です。

新価値を考えるための3つの問い

 

新しい価値を作ろうと思った時、図にあるような3つの円が重なったところの内容を実施する必要があります。1つ目の円Opportunityは市場に機会があるか、ということです。下の2つは、自己理解=自分たちがどうしたいのかという意思と、自分たちの強みをメタ認知することが重要です。何かを成し遂げるときに、強みでしか成し遂げられません。弱みでは何かを成し遂げることはできません。これらの3つの円が重なるところに取り組むべきということです。

世の中のニーズだけを考えるのではなく、「自分たちが何をしたいのか」もしっかりと理解しましょう。

 

新価値創造はWicked Problem(厄介な問題)として扱う

 

「問題」と言うのは3種類あります。単純なSimple Problem(単純な問題)、アポロ計画に代表される複雑な問題Complex Problem(複雑な問題)、そして3つめはWicked problems(厄介な問題)です。Wicked Problemは、問題を定義しようしている間に変化します。「NASAは今後どうしていこうか」というように、正解もありません。新価値創造は、明らかにWicked Problem(厄介な問題)です。

ここで問題になるのは、新しいことを考えるのはWicked problemであるのにもかかわらず、多くの人がComplex problemとして緻密に論理的に解こうとすることです。絶対に失敗しないよう、エビデンスを積み上げて、緻密なプロセスを実行しようとしますが、どういう問題なのかを取り違えています。

Wicked problemの特徴は以下の通りです。

 

新価値創造や会社経営、結婚や人生もWicked Problemです。複雑な問題は「機械論」で解くべきですが、Wicked Problemは「生命論」として解く必要があります。どの芽が綺麗に花を咲かすかはわかりませんので、芽の段階でシステマチックにジャッジすることはできません。みんなで育てていきましょうという話です。

insightを出し、foresightを考えるというのは、自らの世界観を持つ、ということです。Insightは「世の中をどう捉えるか」ということですし、foresightは「どういう世の中にしたいのか」ということです。この2つが合わさったものが世界観になります。

新価値創造では正解のあるものではなく、映画を作るとか、音楽を作るのと似ていて、作家性があります。

新価値創造は、プレゼントを贈るのに似ています。

プレゼントを贈るときには相手のことを理解する必要があります。ただそれだけではいいプレゼントになりません。プレゼントを渡す側の「あなたをこうしてあげたい!」という想いが同じぐらい重要です。つまり、新価値には「顧客理解」と「自分の意思の理解」の両方が必要です。

ドラッカーはビジネスの第一の目的は「顧客を創造すること」と言いました。この有名な表現は英語でどう書かれているかというと、「Create a Customer」と書かれています。「Customers(複数形)」ではなく、「一人の顧客」と書いてあります。新価値も、目の前にいる喜ばせたい一人の人からFactを集めて、Insightを出して、その一人にプレゼンする。一人を深く理解して潜在的な価値を理解して新しい価値を発想する方がいい価値がつくれると思います。

新価値組織は「出島方式」か「神話方式」でつくる

 

最後に、新価値創造のための組織のあり方について2つお話します。1つ目は「出島方式」です。長崎の出島のように、既存の組織と繋がりつつ、異なった文化で運用することが必要です。出島方式の組織を運営するのに大事なことが3つあります。忘却:これまでの成功パターン・常識・経験を捨てる、借用:顧客やブランドは使う(ただし、人事や経理の機能はシェアしない)、学習:不確定要素が多いので、学習が大切。計画達成ではなく、そこから何を学ぶかが大事です。

2つ目は神話方式です。正解のない、成功の保証のない旅をする、という意味では、新価値創造は神話と同じです。桃太郎や西遊記をみても「目的は同じ」だが「異なる能力を持つ人たちがチームになって旅をします。

ヒエラルキーのある組織でいくとうまくいきません。

結局のところ新しい価値を生み出すということは、世の中に自らのメッセージを出すということで、新価値創造の全ての源は皆さんの世界観になります。世の中をどう捉え、どう世の中にしていきたいかが重要になります。

 

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